2014年度:美術史学的キュレーション研究

院生代表者

  • 鹿島 萌子

教員責任者

  • 竹中 悠美

企画目的・実施計画

本プロジェクトは美術史に関する文献の講読を通して先行研究をマッピングすることで、研究に必要となる基礎的・理論的知識を身につけることを目的としたものである。プロジェクトメンバーの専門分野は多岐にわたるが、共通して知識を必要とする分野に芸術学・美術史がある。しかし、これまで各自で自身の研究を進めてきたため、土台となる基礎的知識にバラつきがみられ、各研究分野への深い理解が困難だという問題点があった。そこで本プロジェクトにおいて基礎的・理論的知識に基づく共通理解を身につけることで、参加者の研究分野を互いに理解し、活発な議論を行うことを目標とした。本プロジェクトは、芸術学の基礎的な知識を得る場をつくることに意義を持つものであった。
 研究会の内容は二つに分けられる。一つは、メンバーによる報告を中心とした研究会の開催である。所属メンバーは美術館でのインターンシップや自主企画展に携わっている。そこで各メンバーの実践の報告をもとに、これまでの美術界の動向や現在の芸術学等における批判・問題点を立体的にとらえることを目指した。もう一つは、美術館の展覧会への見学会の開催である。実際に展示を見ることで、展示における作品の意味や社会性・政治性、あるいは展覧会のキュレーション方法について考える機会を得た。以上を通じ参加者は自身の見識を深め、各々の研究の深化・発展に繋げていくことを行った。

活動内容

■研究会
◆第1回研究会
日時:10月7日(火)場所:創思館4階 412号室
報告:高見澤なごみ
「国立国際美術館・インターンシップ報告―「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」展を中心に―」
◆第2回研究会
日時:10月14日 場所:創思館4階 412号室
報告:古田賢「伝統工芸の展示考案―展示における「伝統工芸」と職人が語る「伝統工芸」―」
◆第3回
日時:10月28日 場所:創思館412
報告:枝木妙子「京都国立近代美術館学習支援事業「美術館の放課後」」
◆第4回研究会
日時:2015年1月13日 場所:創思館4階 412号室
報告:永井彩子(文学研究科文化情報学専修)「展示と演劇―近年の動向から―」
◆第5回研究会
日時:2015年2月27日 場所:創思館4階 412号室
報告:高見澤 なごみ「絵画作品のキャプションについて―大塚国際美術館を中心に―」
永井 彩子「複製技術の展示について」
枝木 妙子「ジャポニスムを取り扱った展示について」
古田 賢「「デュフィ展」の服の展示について―画家デュフィとファッション・デザイナーポワレの関係―」

■美術展見学会
◆第1回見学会
日時:10月25日
見学地:京都国立近代美術館「ホイッスラー展」、京都市美術館「ボストン美術館展」、記念講演会「ニューイングランドの港町と日本趣味―ボストン美術館の東洋美術収集はジャポニスムといかに交わるか-」(稲賀繁美氏)
◆第2回見学会
日時:11月30日
見学地:名古屋ボストン美術館「美術する身体-ピカソ、マティス、ウォーホル」展、名古屋市美術館「ゴー・ビトウイーンズ:こどもを通して見る世界」展、愛知県美術館「デュフィ展」
◆第3回見学会
日時:2015年1月18日
見学地:大塚国際美術館

成果及び今後の課題

本研究会は当初美術史の基礎的論文の講読を中心に行う予定であった。しかし、参加メンバーの多くがインターンシップ等で美術館・美術展に携わっていたことから、文献講読ではなく実践報告へと変更し、先行研究の知見を踏まえたうえで、各メンバーの立場から見えてくる美術展あるいは美術館の実践のありようについて報告した。また見学する美術展に関しても当初は近畿一円の美術展を予定していたが、愛知県・徳島県などの美術館へと変更した。通常容易にはいけない美術館の展覧会を見に行くことで、関西県下の美術展からは見えてこないキュレーションの方法や普及活動について考える機会とした。
その結果、大きく二つの成果を得ることができた。一つは、インターン等のメンバーの経験を共有したうえで、複眼的な思考のもとディスカッションを行うことができたことである。特に最後の研究会では、同一の展覧会を鑑賞しているにも関わらず注目するポイントが異なったことが如実に現れる結果となった。このことは、今後メンバーがキュレーションを手掛ける際に活かされるであろう。他研究科院生の参加があったことも、これまで出てこなかった新しい視点からの報告・意見が聞け、ディスカッションの幅を広げる結果となった。もう一つは、実際に展覧会に足を運んだことは、展示方法の考え方から来場者への配慮、またギャラリートークの工夫等を考える機会となった。メンバーのなかには今年度展覧会運営を行った者もおり、その際の展示デザインやトークの方法に活かされる結果となった。
今年度の研究会を通して得られた知見を、各メンバーの論文等に活かしていくことが今後の課題である。

構成メンバー

鹿島 萌子(表象領域・2008年度入学)
古田 賢(表象領域・2014年度入学)
枝木 妙子(表象領域・2013年度入学)
髙見澤 なごみ(表象領域・2014年度入学)

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