Public & Inclusion Research Project(2022年度)

院生代表者

  • 新山 大河

教員責任者

  • 岸 政彦

概要

〈背景〉
COVID-19の感染拡大が著しくなって以降、差別や貧困などの社会問題が浮き彫りとなった。自己責任論と社会的排除が横行し、公共圏は驚くべき速度で縮小している。
 公共圏と包摂に関する知見がこれまでになく求められる一方で、社会問題の構造的要因を明らかとするための一手法であるインタビュー調査の実施が困難となった。また、感染流行下においては研究会や勉強会の開催といった学生の主体的な学びと議論を展開するための場の形成が阻まれ、分断が進んでいる。大学院生には学修と研究、そして社会に向けた成果の発信といった学術的意義および社会的意義への円環的な姿勢が求められている。
これらに対して、「社会的排除」をテーマに研究会を院生間で共同的に進めたい。

〈目的〉
本プロジェクトの目的は以下の3点である。
①「社会的排除」に関連したテーマで、質的社会調査を用いた研究を行なっている院生を主体に、輪読会・データセッションなどの研究会を通じて各自の研究力を向上させる。
②社会調査実習を通して、フィールドワークを体系的/総体的に学び、質的社会調査法に関するノウハウを習得する。
③各々の研究から、データセッション会によって導き出された知見を、学会報告や論文投稿などを通じて学術研究の発展に寄与する。

〈方法・内容〉
 上記の目的を達成するために、本活動では次の活動を実施する。
1【輪読会】
主に質的社会調査の古典と位置付けられる著作を課題図書として設定する。各々が設定した図書を輪読会までに購読し、担当パートのレジュメをもとに報告を行う。報告を受け、各々の研究関心やテーマに引き付けた議論を行う。
2【インタビュー調査】
メンバーが各々の活動しているフィールドの調査協力者へと生活史調査を行う。
3【データセッション会】
調査で得られたデータを文字起こしし、データをもとに議論を行う。社会的排除の実態から、各自の研究の課題を議論から導き出す。導き出された知見をもとに、いかにして成果を社会へ発信、還元していくのかを議論する。
4【講師招聘】
社会的排除に関わる研究へ取り組む講師を招聘し、公共圏と社会的排除について学ぶ。そののちに講演をふまえて、各々の活動しているフィールドにおける社会問題や構造的要因について議論する。
5 【社会調査実習】
「沖縄戦の生活史と戦後沖縄社会の構造変容」(岸政彦/科研費研究課題19K02056) における調査へ、研究会コアメンバーが同行して調査の補助、聞き取りを行う。調査に同席し、現地での調査対象者との信頼の築き方や、研究者として望まれる立ち振る舞いなど、明文化できないような事柄も含めた社会調査の方法を取得し、フィールドワークを総体的、体系的に学ぶ。

<意義>
①研究会を通じた研究活動によって得られた知見を、学会報告や論文投稿などの形で社会に発信する
②アフターコロナの学修における学び方を模索し、引き継ぐことでピア学習のモデルを提示する

活動内容

活動内容
①マックス・ウェーバー『理解社会学のカテゴリー』輪読会
開催日: 2022年6月18日
会場:Zoom開催

②アーヴィング・ゴッフマン『スティグマの社会学』輪読会
開催日: 2022年7月20日
会場:Zoom開催

③ハワード・ベッカー『アウトサイダーズ』輪読会
開催日: 2022年8月13日
会場:Zoom開催

④社会調査実習
開催日:2022年9月12~16日
会場:沖縄県 那覇市・座間味村
講師招聘研究会:「沖縄の階層とジェンダー」(於:琉球大学) 上間陽子先生(琉球大学)

⑤ピエール・ブルデュー『芸術の規則I』輪読会
開催日: 2022年11月2日
会場:Zoom開催

⑥ピエール・ブルデュー『芸術の規則II』輪読会
開催日: 2022年12月7日
会場:Zoom開催

⑦ハワード・ベッカー『アート・ワールド』輪読会
開催日: 2023年1月18日
会場:Zoom開催

成果及び今後の課題

 本プロジェクトの研究成果は以下の通りである。いずれの活動も構成メンバーに加えて他大学の大学院生や学部生の参加もあり、活発な研究会活動を行うことができた。

【古典輪読会】
 古典輪読会では、マックス・ウェーバー『理解社会学のカテゴリー』、アーヴィング・ゴッフマン『スティグマの社会学』、ハワード・ベッカー『アウトサイダーズ』『アート•ワールド』、ピエール・ブルデュー『芸術の規則I・II』を取り上げた。いずれも社会学の重要文献として位置付けられているもので、本研究会のテーマである社会化的排除や公共圏といった観点から検討を行うことができた。

【社会調査実習・講師招聘】
 社会調査実習では、岸政彦先生の「沖縄戦の生活史と戦後沖縄社会の構造変容」(科研研究課題/領域番号19K02056)に同行する形で行なった。「沖縄社会の戦後の継時的な構造変容」をテーマに、戦争体験者がその後どう人生を形作っていったのかについて調査を行なった。実習では実査に加え、琉球大学教授の上間陽子先生を招聘し、「沖縄の階層とジェンダー」をテーマにご講演をいただいた。
 研究成果としては、取り組みが琉球新報で報じられた他に、得られたデータをまとめた報告書が立命館大学国際言語文化研究所より発行された。報告書は座間味村役場や、座間見小中学校、語り手の方々へお配りすることを予定している。各々の研究活動の基礎力を底上げすることを目的として、インフォーマントとの信頼関係の築き方や、立ち振る舞いなど、明文化できない社会調査のノウハウを取得し、フィールドワークを総体的、体系的に学ぶことができた。

【成果物】
[調査報告書]岸政彦・山本和(編), 2023, 『調査報告書 座間味の人生』 立命館大学国際言語文化研究所.
[メディア報道]琉球新報DIGITAL, 2022, 「火薬で遊ぶ子どもに『戦争は終わった後も続いてる』大学院生らが座間味島の
生活史を聞き取り」(最終閲覧日2023年2月21日 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1588703.html).

構成メンバー

新山 大河
西本 春菜
玉置 ふくら
玉木 敦之(社会学研究科)
林 綾乃(社会学研究科)

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