祝祭の多角的再考から導く共生研究(2012年度)

院生代表者

  • 梁 説

教員責任者

  • 渡辺 公三

企画目的・実施計画

目的

地域の祭り、民族(部族)の祭りという言葉でよく括られるように、祝祭や儀礼は土地や土地につながる神話と深い関係をもって継承されてきた。また3.11以降、地域の「祭り」は共同体の維持装置として、注目と再評価を集めるに至っている。多様な形で人々が移動を行う(移動を余儀なくされる)今日、祝祭はどのように変化していくのか、多彩なフィールドを持つ各研究者の研究領域から、今日の祝祭のあり様を収集し、そこから導き出せる「共生」社会構築への可能性と限界を見出すことを目的とし、本プロジェクトの推進を図った。

計画

「研究会・読書会形式での祝祭(論)の再考」、「共同・個別の調査やフィールドワーク実施」、「研究検討会と研究成果発表」の3つの方法を用いて、以下の研究計画を立案した。

  1. 2012年6月~10月 「祝祭(論)」の研究会(1回/月開催予定)
      モース、レヴィ=ストロース、岡本太郎の人類学的系譜と、ミハイール・バフチンの祝祭論を中心に進める。2012年度はバフチーンを予定。
  2. 2012年8月~2013年2月 各研究者による調査・フィールドワークの実施
  3. 2012年11月~2013年2月 調査・フィールドワークに基づく研究報告、プロジェクト内容に沿った検討会の開催(1回/月開催予定)
  4. 2013年3月 研究成果発表会開催

活動内容

定例研究会

年間計4回の読書会の開催と、1回のDVD上映会を開催し、今日的「祝祭」について、主として人類学的、社会学的、思想的角度からの考察を行った。当初は文化人類学の古典的文献からの「祝祭論」再考を試みたが、プロジェクト内での議論・検討を重ねた結果、H.ルフェーヴル、石橋純、広瀬純、ジャック・ランシエールを選択し、研究会を開催した。

第1回 「祝祭と共生」研究会
日時:2012年7月27日(金) 14:00~17:00
場所:学而館2F 共生部屋
内容: H.ルフェーヴル著 『パリ・コンミューン』検討会

第2回 祝祭と共生研究会
開催日時: 8月28日(火)14:00~17:00
場所: 学而館2F 共生部屋
内容: 石橋純著、『太鼓歌に耳をかせ』検討会

第3回 祝祭と共生研究会
開催日時: 9月24日(月) 14:00~17:00
開催場所: 学而館2F 共生部屋
内容: 広瀬純著 『闘争の最小回路』検討会
※石橋純監督、『ハンモックの埋葬』DVD視聴会 同時開催

第4回 祝祭と共生研究会
開催日時:3月5日(火)14:00~
開催場所:学而館2階 共生部屋
内容: ジャック・ランシエールの『民主主義への憎悪』

公開研究会

第1回公開研究会 
「文化の政治と太鼓の響き:民衆文化運動の現在性」
開催日時:2012年11月9日(金)14:00~18:00
開催場所:アカデメイア立命21 3F 中会議室
※南米ベネズエラのサンミジャン地域を舞台に、祭りの復興と地域の文化運動を追った『太鼓歌に耳をかせ』の著者、石橋純氏をお迎えし、公開研究会を開催した。本研究会の主要な関心事である「祭りや太鼓の響きに流れる“人々を突き動かすような力”とはどのようなものか。そうした力が民衆の側に主体的にあるとき、権力や政治に組み込まれていくとき、どう作用するのか。」という問題設定は、当プロジェクトにおいて、年間を通じた探究のテーマとなった。

第2回公開研究会
「祝祭・多文化交流の可能性を地域からみる」
開催日時:2013年3月19日(火)14:00~19:00
開催場所:京都市地域・多文化交流ネットワークサロン多目的コーナー

報告① 「在日フィリピン人コミュニティに係わる人類学的研究からみえたこと」
報告者 永田貴聖(立命館大学衣笠総合研究機構PDフェロー)

報告② 「東九条における「多文化交流」の現状~日常性とネットワーク化の課題」
報告者 山本崇記
(日本学術振興会PD・京都大学、京都市地域・多文化交流ネットワークサロン事務局)

報告③ 「5月光州の祝祭性に魅せられて
-周縁世界から見出した普遍性を今後につなげるために-光州、東九条の考察から」
報告者 梁説(立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程)

調査報告① 「高知花柳界の過去と現在―稲荷新地と玉水新地―」
報告者 松田有紀子(立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程)

成果及び今後の課題

 研究計画で見られるように、土地とのつながり(=移動による土地との断絶)に重点を置いた「祝祭」考察から「共生社会」実現への手立てを導くことを目指し、当院生プロジェクトは始動した。申請後、生存学研究センター若手強化型研究プロジェクトでの展開を契機に、“「祝祭」から見る「人間の生存、生のあり方」の考察”、“「人間の生存、生のあり方」から派生される「祝祭の形態」の考察”に研究をフォーカスさせた。このことによって、「祝祭的なるものに集う人々」、「祝祭的なるものを創造する人々」といった「人」に主眼を置き、文化人類学、社会学、政治学、哲学、思想史、etc…から多角的に考察することで「人と土地」「人と社会」などの関係性の具体性を可視化できるようになった。
 二年目以降の当プロジェクトには、東日本大震災以降の「祭り」の再評価、エンパワーメントとしての「祝祭」評価という現代的な潮流とは別の仕方から、「祝祭的なもの」について考察・探求する工夫が、課題として求められる。模索段階ではあるが、研究者が個々の専門領域での研究を推進するだけでなく、研究者自身のアイデンティティや存在の在り様にも向き合える装置として機能しうる可能性が、本プロジェクトにあると考えている。この点に本研究プロジェクトの特色があり、<院生のプロジェクト>としての意味がこの点にあると思われる。また将来的には、本研究プロジェクトが祝祭的なるものから得られる恍惚状態を知的に体験できるような「知」のトランス空間を創出できるようになることを目指したい。そのために、文学、思想、哲学、芸術の「読み」における恍惚領域をいかに担保するか、ということを念頭に置き、研究活動を進めるようにする。

●構成メンバーの研究成果は以下の通り
[論文](査読あり)
・松田有紀子「「女の町」の変貌──戦後における京都花街の年季奉公をめぐって」、天田城介・角崎洋平・櫻井悟史編『体制の歴史』、洛北出版、***-***頁、2013年4
[論文](査読なし)
・近藤宏「気候変動緩和枠組みに動員される先住民」『立命館国際言語文化研究』第23号 (ページ未定) 2013年
[海外での発表]
・Yukiko Matsuda, The Three Phases of Geisha Common-law family relationships in the Entertainment Quarters of Kyoto City: Mother-Daughter, Elder Sister-Younger Sister, Husband-Wife, 6 September 2012, British Association for Japanese Studies Conference 2012 Norwich/UK (University of East Anglia, Thomas Paine Study Centre)
[国内での発表]
・近藤宏「皮膚という表面」、2012年6月、日本文化人類学会、広島大学
・松田有紀子「「女の街」を生きぬく:京都花街におけるお茶屋の「商売感覚」に着目して」、2012年6月24日、第46回日本文化人類学会、広島大学東広島キャンパス
・梁説「自らの文化を創りだす人たち」、2012年11月10日、第26回韓国日本近代学会、立命館大学

構成メンバー

  • 西嶋 一泰
    先端総合学術研究科・共生領域・2009年度入学
  • 石田 智恵
    先端総合学術研究科・共生領域・2007年度入学
  • 松田 有紀子
    先端総合学術研究科・共生領域・2008年度入学
  • 近藤 宏
    先端総合学術研究科・共生領域・2006年度入学
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