重度障害者の空港及び航空機等における円滑な移動を促進する調査

院生代表者

  • 桐原 尚之

教員責任者

  • 立岩 真也

企画目的・実施計画

 本研究プロジェクトは、空港及び航空機等を対象とした重度障害者の円滑な移動を促進するために必要な実態把握をおこなうことを目的とする。
 2018年5月18日、いくつかの課題を残しつつ高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を見直す法案(以下「改正バリアフリー法」とする。)が7年ぶりに改正され成立した。5月8日の参議院本会議では、筋萎縮性側索硬化症(以下、「ALS」とする。)の人の空港及び航空機等の利用をめぐる問題について審議がおこなわれ課題があきらかにされた。例えば、座位を保てない人が搭乗できるようなプランは少なく、割引チケットなどの選択肢もないため、いずれも高額となっていること、また、人工呼吸器ユーザーはたくさんの機器を必要とし、それを持ち込むために事前に診断書を付けて申請しているが、それでも保安検査場において機器を解体されることなどがそうである。
 しかし、これらの課題は、改正バリアフリー法での解決が見送られ、次の改正まで先送りにされることとなった。そのため、次の改正で課題を解決するためには、課題の整理と実態把握が必要不可欠である。そこでALSの人の飛行機利用における実態の調査をおこなった。

活動内容

2018年9月7日に参議院議員会館にて「ALSの航空バリアフリー研究会」を開催した。

日 時: 2018年9月7日(金)13時から16時
場 所: 参議院議員会館 地下1階・103室
共 催: ALSの航空機利用におけるバリアフリー研究会

プログラム
第一部 (13:00~14:00)
・空港及び航空機の利用についてALS当事者の経験(増田英明 佐川優子 岡部宏生)
第二部 (14:00~15:00)
 ・改正バリアフリー法及び改正航空法の制度説明
  (国土交通省総合政策局安心生活政策課 同省航空局航空ネットワーク企画課 同省航空局航空事業課)
 ・川田龍平参議院議員の取り組み

・2018年9月13日
川口有美子さんにALSの人の飛行機の利用実態を聞き取り調査した。空港の保安検査場における医療機器の取扱いに関する事例を聴き取りした。要人訪問などで警備が強化されていると医療機器を分解されることがあることがわかった。事前に航空会社と空港の保安検査場の連携関係について調査したところ、航空会社が同行して医療機器について説明できたとしても、保安検査場は保安検査場の判断で分解してしまうことを妨げないため、解決策がほとんどないことがわかった。

・2018年11月8日
川口有美子さんにALSの人の飛行機の利用実態を聞き取り調査した。北海道において天候上の理由で飛行機が飛ばないトラブルにあった経験や機内で飛行中にシートベルト着用サインが出ている状態で人工呼吸器が外れて転がっていったのを拾いに行こうとしたら着席を求められた話しなどを聴くことができた。

・2018年11月26日
川田龍平参議院議員が2018年6月におこなった各主要な空港(羽田T1、T2、羽田国際、成田T1、T2、T3、関空T1、T2、伊丹、中部、福岡、新千歳、那覇)における担架、ストレッチャー、リクライニング車椅子、車椅子の設置状況、それぞれ機内利用可の設置状況について、当研究会が自主的に追跡調査をおこうことを決めた。

・2018年12月4日
エアカナダが国際線のビジネスクラスとストレッチャー席に障害者割引を適用させていることがわかった。調査のため実際にエアカナダを利用するALSの人がいないか打ち合わせをおこない実現可能性の高そうな候補者を絞り込むことができた。調査の実施は今年度中には難しいが、調査の目途を立てることまでは実現できた。

・2019年2月13日
 京都市障害者自立支援協議会権利擁護部会に出席し、日本ALS協会近畿ブロック増田英明会長の活動を参与観察した。飛行機を使用する上での課題が「障害に基づく差別」という観点で行政上の手続きにのっていることが明らかになった。

成果及び今後の課題

 ALSの人をはじめとする重度障害者の空港及び航空機等における円滑な移動を促進するため、何が課題であり、どう取り組むべきであるかを重点事項にまとめ明らかにした。
・実際にALSの人が海外旅行に行くための予算の獲得し、渡航を支援・調査する。とりわけてビジネス席に障害者割引を採用しているエアカナダへの搭乗と調査を目指す。
・改正バリアフリー法に基づく市町村の協議の場に当事者の参画を促していく。そのため、モデルケースの紹介や参画状況の実態把握をおこなう。
・航空機利用等におけるALSの人の困りごと・工夫などのエピソードを集積し、報告書にまとめていく。
・改正バリアフリー法の接遇と研修について当事者を中心とした研修コンテンツを作成し、当事者が研修を担えるようにしていく。なお、これによって客室乗務員による人工呼吸器の取り扱いや保安検査場での医療機器の取り扱いの問題の解決を目指す。
・空港における担架、リクライニング式車椅子、ストレッチャー等の設置状況を毎年調べて公表する。必要に応じて空港に設置要求を出していく。
・航空会社にストレッチャー料金等の見直しを求めていく。具体的には、川田龍平参議院議員による働きかけと京都市による働きかけであり、その記録をとる。また、各航空会社のストレッチャー料金及びビジネスシートの障害者割引について調査をおこなう。

構成メンバー

・桐原 尚之
・西田 美紀
・戸田 真里
・舘澤 謙蔵

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