「音楽と社会」研究会(2018年度)

院生代表者

  • 奥坊由起子

教員責任者

  • 吉田寛

企画目的・実施計画

  本研究会の目的は、音楽と社会の相関に着目し、音楽学のみならず歴史学や社会学、人類学等の知見を参照しながら音楽・文化研究が行えるよう、必要な知識、方法論を参加メンバー間の議論から身に付けることであった。音楽研究において、対象となる作曲家や作品を社会とのかかわりの中で考察することは今や当然のこととなり、様々な学問分野を融合する視点をもって研究を進めることが必要となっている。本研究会はこうした近年の研究の動向を踏まえ、参加メンバー各自の研究における視野を広げることに主眼をおき活動を行った。また、企画を開催するにあたり計画立案や連絡調整等を行い、研究遂行能力を高めることも目的の一つである。
 今年度は、昨年度までの活動をふまえ、音楽活動の土壌としての地理的空間や都市という観点から音楽文化の営みを検討するために、1)基礎となる文献(音楽社会学、人文地理学、歴史学等)の講読、2)都市(空間)と音楽をテーマにしたシンポジウムの開催、を行った。また、これまでの経験をふまえ、研究会参加者の研究発表会を公開で開催した。

活動内容

1)基礎となる文献の講読
春学期に4回、秋学期に3回に分けて、次の文献をメンバーで講読し議論した。①イーフー・トゥアン『空間の経験』(ちくま学芸文庫、1993)、②アラン・コルバン『音の風景』(藤原書店、1997)、③エドワード・ソジャ『ポストモダン地理学』(青土社、2003)、④キース・ニーガス『ポピュラー音楽理論入門』(水声社、2004)、⑤ピエール・ブルデュー『実践理性:行動の理論について』(藤原書店、2007)、⑥齋藤桂『1933年を聴く:戦前日本の音風景』(NTT出版、2017)、⑦安田昌弘「ヒップホップ、近代、ストリート:パリおよび東京のヒップホップシーンに関する一考察」(『ExMusica』4巻、2001)、⑧安田昌弘「ポピュラー音楽に見るグローバルとローカルの結節点」(東谷護編『ポピュラー音楽へのまなざし:売る・読む・楽しむ』、勁草書房、2003)、⑨池田真利子「文化的占拠の葛藤と都市変容における自由空間としての役割:旧東ベルリン地区タヘレスを事例として」(『地理学評論』87巻3号、2014)。

2)シンポジウムの開催
 2019年1月19日(土)に「都市と芸術のダイナミズム」と題するシンポジウムを開催した。基調講演は、①安田昌弘氏(京都精華大学)「音楽と空間の相互作用について」、②池田真利子氏(日本学術振興会特別研究員PD(東京学芸大学))「ポスト・ウォール期のベルリンの占拠運動と場所の生成-東ベルリンの芸術とテクノ音楽の文化的実践に注目して-」、③齋藤桂氏(京都市立芸術大学)「1930年代日本の都市と音」であり、基調講演の後、来場者を交えて総合討論を行った。なお、参加者は研究会メンバーを含めて約30名であった。
本シンポジウムでは、①ある都市が持つ政治・経済、あるいは歴史的な背景が、芸術/音の体験とどのような関係を築くか、②芸術を生み出し、受容する都市内外の人々の実践が、いかにして文化的・感性的な場の意味を(再)創造するか、③(再)創造された文化的・感性的な場の意味は、都市の形成や変容に関与するのか、という点を中心に議論を深めることができた。

3)研究発表会の開催
 2019年2月17日(日)に「研究フォーラム」と題して、研究会に参加する院生の研究発表会を開催した。研究発表は、①原塁(京都大学大学院)「楽曲分析を分析する――「アンフォルメル音楽」の解釈学に向けて」、②山口隆太郎(表象領域)「アルフレッド・シュッツの音楽論における共同性」、③土田まどか(東京大学大学院)「バリ島“デフ・ヴィレッジ”におけるろう者の芸能参加とアイデンティティ」、④吉田瞳(京都大学大学院)「ドイツ中世都市の音と公共」、⑤牧野広樹(京都大学大学院)「青年音楽運動と音響メディア」、⑥中辻柚珠(京都大学大学院)「世紀転換期プラハ美術界のナショナリズムへの応答」、⑦奥坊由起子(表象領域)「エルガーの音楽は何を語る役割を担ったか?――戦間期の公式行事にみる帝国主義から」であった。その後、来場者を含めた総合討論を行った。なお、参加者は発表者を含めて約25名であった。
 本研究発表会では、様々な分野の研究動向を知ることができ、文化研究の幅広さを再認識することができた。また、来場者を含めた総合討論で、各自の研究課題を深めることができた。

  • 「音楽と社会」研究会 研究フォーラム
  • 日時:2019年2月17日(日) 12:00~17:45

    場所:立命館大学衣笠キャンパス学而館312教室
    アクセス
    キャンパスマップ

    【内容】

    ☆ 研究発表 12:00~15:45 
     *発表題目は変更となる場合があります

    原塁(京都大学大学院/音楽学)
    「楽曲分析を分析する――「アンフォルメル音楽」の解釈学に向けて」

    山口隆太郎(立命館大学大学院/音楽哲学)
    「アルフレッド・シュッツの音楽論における共同性」

    土田まどか(東京大学大学院/文化人類学)
    「バリ島“デフ・ヴィレッジ”におけるろう者の芸能参加とアイデンティティ」

    吉田瞳(京都大学大学院/中世ドイツ史)
    「ドイツ中世都市の音と公共」

    牧野広樹(京都大学大学院/ドイツ文化史)
    「青年音楽運動と音響メディア」

    中辻柚珠(京都大学大学院/近代チェコ・ナショナリズム史)
    「世紀転換期プラハ美術界のナショナリズムへの応答」

    奥坊由起子(立命館大学大学院/音楽文化史)
    「エルガーの音楽は何を語る役割を担ったか?――戦間期の公式行事と帝国のアイデンティティ」

    ☆ 総合討論 16:00~17:45

  • シンポジウム:
    都市と芸術のダイナミズム
  • 日時:2019年1月19日(土)13:00~17:00

    場所:立命館大学衣笠キャンパス 学而館301号室

    アクセス
    キャンパスマップ

    【内容】
    13:00~15:00 基調講演

    登壇者(敬称略)※タイトル等は変更となる可能性があります。

    安田昌弘
    (京都精華大学/音楽社会学)
    「音楽と空間の相互作用について」
    【要旨】
     モーツァルトとザルツブルク、エルガーとミッドランド、ビートルズとリバプール。ブルーズとミシシッピ三角州、レゲエとジャマイカ、ヒップホップとニューヨークなど、音楽と空間(あるいは場所)の結びつきに関する研究は古今東西枚挙にいとまがない。しかし、実際には、これらの土地がこれらの音楽や音楽家を輩出した空間――あるいは環境――要因を一義的に説明することはできない。さらには、ブルーズの「父」を特定し、その住居一帯を買い上げて再開発し、ブルースの聖地をつくってしまったメンフィスのように、下手をするとグローバル経済のなかでの観光客の誘致合戦に都合の良い「研究」も少なくない。
     本講では、このような問題意識を踏まえ、人文地理学者のデヴィッド・ハーヴェイが『Social Justice and the City』(1973. London: Edward Arnold)の冒頭で定義した、「絶対的空間(Absolute Space)」「相対的空間(Relative Space」「関係的空間(Relational Space)」という三つの空間概念を紹介し、これらの空間概念を、それぞれ独立したものとしてではなく、相互に干渉しあうものとしてを網羅的に把握することが、音楽と空間の結びつきを説明する上で、どのような含意を持ちうるかを検討する。発表者はこれまで、非英米圏のヒップホップや、京都のブルーズの調査をおこなってきたが、そうした知見を踏まえつつ、音楽と空間の相互作用のダイナミズムを浮き彫りにしたい。

    池田真利子
    (日本学術振興会特別研究員PD(東京学芸大学)/都市地理学)
    「ポスト・ウォール期のベルリンの占拠運動と場所の生成-東ベルリンの芸術とテクノ音楽の文化的実践に注目して-」
    【要旨】
     ドイツの首都ベルリンは,例外都市である。シュプレー川とそれに近接する旧市街から成る町は,やがて西欧一の人口規模を有するユダヤ人街を包摂する一大工業都市へと変化した。そして,第二次世界大戦後の東西ドイツ分断時には,中心(インナーシティ)と周縁(郊外)の社会的役割が大きく変化し,結果として1990年代直前まで,市の中心には例外的なまでに巨大で異質なモノクロの空間が残された。そこでは,異なる体制のもと東西ベルリンで独自に発展した文化が,市外・海外からの文化を取り込みながら醸成された。
     本発表では,ベルリンの壁崩壊前後より,こうした市の中心で開始された占拠運動を鍵概念とし,特に東ベルリンのインナーシティにおいて生み出された文化的実践(芸術と音楽)を,いくつかの事例とともに紹介する。そして,それが2019年現在のベルリンの都市発展といかに関連するのかにまで言及する。

    齋藤桂
    (京都市立芸術大学/音楽学)
    「1930年代日本の都市と音」
    【要旨】
     人が作るものは、都市のような大きなものから音楽のように形のないものまで、常に時代に即して変化してきた。だが、20世紀に入ってからのそれは今の私たちにとっては非常に大きな変化であるように見える(資料の残存状況や、現代の生活スタイル等との連続性がそう感じさせるところが大きいのだろうが)。
     本発表では、1930年代の日本の都市と音・音楽を、おもに以下の二つ観点から扱い、その前後の変化について考察したい。
    ●都市と郊外、田舎の音的表象
     関東大震災後の都市の再建・発達と、都市文化の成熟は、同時にその都市の外部への意識の変化をももたらしたと考えられる。たとえば、都市の喧噪を適度に離れた郊外の住宅地や、さらに遠く離れた別荘地、もしくは保養地や観光地・景勝地などは、いかに音で表象されたのだろうか。
     また、これらのさらに外にあるものとして、いわゆる満州のような「荒野」のイメージが存在していたことも指摘できる。荒野をさすらう馬賊という、ほとんど架空の世界への憧れは、多くの流行歌を生んでいる。ここには、さすらうことのない都市との対比が込められていると考えられる。
    ●都市の内部での音・音楽
     都市の内部でも、新しい時代の音・音楽が生じている。それらの中には、現代にも続いているという点でエポックとなったものもあれば、その時期に限ったものとして時代の象徴になったものもある。本発表では、雑多かつ恣意的になることを敢えて避けず、都市内部の様々な音・音楽を紹介し、本発表の問題を考えるきっかけにしたい。

    15:15~17:00 ディスカッション

成果及び今後の課題

 今年度は、シンポジウムと研究発表会を公開で開催し、これまでの活動から得た知見を活かして、文化研究の諸問題を深く議論することができた。また、学外の研究者とも共同して研究会を開催できたことも、研究遂行能力を高めるうえで重要な成果だと思われる。今後もこうした人的交流を活かして、研究活動を継続的に進めることが課題である。

構成メンバー

・奥坊 由起子: 
  イングランド音楽文化史 エドワード・エルガー ナショナル・アイデンティティ
・黄 茜: 
  比較文学 村上春樹 華人 ディアスポラ
・焦 岩:
  遊び論 遊び概念分析 ゲーミフィケーション 
・SHIN Juhyung:
  Game studies シリアスゲーム educational board games
・忠岡 経子
・堤 万里子: 
  文化政策学 公立文化施設(音楽堂、劇場)
・西澤 忠志: 
  近代日本音楽史 明治期の批評
・山口 隆太郎: 
  音楽哲学 演奏論 アルフレッド・シュッツの音楽論 音楽教育

研究会メンバー

土田 まどか(東京大学大学院):
  文化人類学 ろう(聾)と音楽 インドネシア・バリ島
・中辻 柚珠(京都大学大学院):
  近現代チェコ・ナショナリズム史 マーネス造形芸術家協会 ナショナル・インディファレンス
・原 塁(京都大学大学院):
  20世紀の音楽/美学思想
・藤原 征生(京都大学大学院):
  日本映画史/日本映画音楽史 芥川也寸志研究
牧野 広樹(京都大学大学院): 
  ドイツ文化史 青年音楽運動
吉田 瞳(京都大学大学院):
  中世ドイツ史 音と都市統治 サウンドスケープ

活動歴

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