公式/非公式なる「生」研究会

院生代表者

  • 篠原 眞紀子

教員責任者

  • 立岩 真也

企画目的・実施計画

 本研究会は,フィールドワークや資料調査による研究の中で,当事者の方々が「医療」では語られないこと,語れない「痛み」や「生きづらさ」について,「それは一体なになのだろうか?」「何故そうなるのだろうか?」と問いながら,そのことについて当事者の自治会活動,自主的活動を掘り下げて考えてみることとした。得られた知が個人の研究内だけに留まらず,相互学習することで,さらに新たな研究の視野を探究していこうと志すものであった。
本研究会メンバーは,病(やまい)をもたれたり「障害」のある方々と関わってきたが,「医療」の範疇にない「痛み」や「生きづらさ」の存在を実感してきた。そしてその「痛み」や「生きづらさ」は,公けに出さなくては更に二次的な「生きづらさ」を助長するものであったり,一方で非公式にしておきたいが「痛み」のシェアをして活力を得たい部分が混在していることがわかってきた。研究が個人内で留まっているだけでは社会的還元は望めない。お互いのフィールドワークや資料調査で得た事項について議論を深め,研究成果を明示することは,当事者の方々の生きやすさにもつながっていく可能性があり,また,支援の介入についても覚知をうながす可能性を持ちえると確信し,共同研究していくことに意義があるものと考え,研究会の実施計画を行った。申請者たちは上記のフィールドワークや資料調査についての結果を内部でまず発表し議論する計画を立てていった。そして,社会還元できる部分は報告発表していくことと計画した。

活動内容

第1回 7月26日  各自の研究課題から「公式/非公式の「生」」に関する事項の検討と,共通認
識事項の確認,調査計画に関する討議。
第2回 10月10日 各自の研究事項から,調査の難題について,お互いに意見を出し合い検討。
第3回 11月28日 調査中間報告
第4回  2月 6日 調査成果報告と今後の課題検討

研究会の討議を通して行った各自の活動経過
鈴木 
重層的な抑圧構造のなかで生きるハンセン病療養所入所者の公式な制度とそれに対する非公式な行
動がどのようなものだったかを具体的に明らかにする。沖縄のハンセン病患者に対する重層的な抑圧構造は,戦後の米軍統治下だけではなく,1907年から始まった日本のハンセン病政策からすでにあった。
今回の調査・研究は,次の2点について行った。1点めは,米軍統治下にハンセン病患者として渡日する時の「非公式」なあり方であり,2点めは,沖縄本島に設立された療養所,国頭愛楽園開園時の,国が求める入所者のあり方とそれに対抗する入所者のあり方についてである。2点目については2016年3月6日沖鵜縄愛楽園交流会館で開催された、リプリント『選ばれた島』発刊記念シンポジウム 青木恵哉~愛楽園の礎となった療養者~において、論題『創立期の愛楽園で人々が求めたこと』を報告した。
 また,このシンポジウムの報告は来年度,論集として発刊する予定になっている。

岸田
活動レポート 2015年10月
京都府立盲学校資料室を訪問。住所 京都市北区
目的 自身(岸田)の研究目的は,研究対象である視覚障害者であった故楠敏雄が大学進学をめざし1966年京都府立盲学校に進学したが,その状況を解明することにある。
京都府盲学校は,全国の盲学校から筑波盲学校理療課教員養成施設を受験する生徒や大学受験する生徒を普通科専攻科に受け入れていたので,当時の視覚障害者の大学進学の状況を解明するために妥当な機関として来訪した。そして,当学の岸教諭から説明を受けることを目的とした。
聞き取りから得た結果
1.1966年当時,視覚障害者の大学進学志望者は極小であったため,全国の盲学校で大学進学に関する調査は実施されていなかった。京都府立盲学校のみを調べると,1967年大学進学の生徒は,楠と女子生徒だけであった。
2.当時,東京教育大学以外の国立大学では点字受験は実施されず,他に視覚障害者の大学受験の道は私立大学受験以外なかった。京都府立盲学校からの大学進学者は少数であるが存在し,楠が龍谷大学に入学した翌年,当学校から始めて大阪音楽大学に合格した生徒がいた。
3.岸教諭の話から戦前に楠のように過激な視覚障害の社会運動家が存在したとのことであったが,それを示す資料は皆無であった。
4.京都府立盲学校は日本初の盲学校であるため,その発端を理解する事を意図し,盲教育の先駆的活動資料を閲覧していった。
今回の訪問調査によって,楠が大学受験を目指した1966年当時は視覚障害者にとって,大学進学は極小で,本人にとって相当な覚悟が必要と推測された。

定藤邦子(研究協力者・助言者)

1991年,筋ジストロフィーの重度の障害児玉置君は成績が合格点にもかかわらず身体障害を理由に尼崎市立尼崎高校への入学を拒否された。彼は「その不合格処分は障害児の能力に応じて等しく教育を受ける権利の侵害である」として提訴した。1992年,裁判の判決は「身体障害のみを理由に入学の道が閉ざされることは許されない」として入学不許可処分の取り消しを命じた。それまで養護学校義務化の日本では統合教育を認めた判決はなかった。統合教育が尊重されたこの裁判判決は画期的であり障害者の学校選択権を広げた。この24年前の裁判は今日の障害児の教育機会の平等にとって重要な裁判であった
筆者は第1にこの裁判を検証し,第2に今日の障害児の教育権の問題点を探り,障害児の教育の機会平等について,研究会で討議し,本年度はこの裁判の経緯を明らかにするために主に2冊の裁判記録資料集と当時の新聞記事や支援団体の活動資料を中心に研究した。裁判記録資料集は自身(定藤)が所有していたものである。当時のこの裁判に関する新聞記事と支援団体の活動資料については,2011年8月に自身(定藤)と当時先端研の青木千帆子専門研究員と立命館大学非常勤講師野崎泰伸氏と共に障害者作業所「遊び雲」を訪問して,兵庫の障害者運動資料の中から先端研の資料として提供したものである。
この裁判が今日の障害児の教育の選択権にどのように影響しているかまた,障害児教育の現状を考えるために,南大阪「障害」のある子供と学校生活を考える学習会(2015年8月29日,2016年1月9日)に参加した。その中で障害児者と家族の教育の現状や悩みを聞くことができた。そして,最近では知的障害者や発達障害者の児童の親の悩みが深刻であることを感じた。高校進学において子供にとって普通校がいいのか支援学校がいいのか悩む親が多い。また普通高への進学を希望しても定員割れの定時制高校が家から遠いとか,やはり昼間の学校へ行きたいと希望する障害児も多い。重度脳性マヒの障害児を普通高と大学に通わせた母親は,「支援学校があるので,親は支援学校か普通高かを悩むのであって,最初から支援学校がない方がいいのでは」と語っていた。また,都道府県や地域によって障害児の普通高選択権の自由もまちまちであるという問題もある。

篠原
1970年代から80年代に中津川市の市民運動に支えられて東小学校の養護学級から派生して「生活の家」が構築された。当時から現在に至り障害ある人たちが「仲間の会」という会議を行っている。毎週水曜日にはグループホームで暮らす「障害者」と重度心身障害施設(以下,重心施設と略)の「障害者」で構成される会議が行われている。他に自活センター及びグループホーム,重心施設の合同会議と役員会があるが,自身(篠原)は前者の会議の参与観察を行った。
仲間の会は自由参加だが,さまざまな種別の「障害者」が参加していた。一議題につき,みなの了解や意見が出されることを原則としていたが,参加中,給料の問題が挙げられていた。グループホームの人たちは何らかの収入を得ているが,重心の人たちは給料を受け取る機会がないため,重心の人たちにグループホームの人たちの収入を分配できないかというものであった。
現在の生活の家の主要な敷地は開拓地で,戦後入植した開拓者から無期限無料貸借された土地であるが,毎年9月にその開拓者を迎え生活の家に関わる「障害者」たちが敬老会を行っている。公式的には一つの行事として述べられてしまうが,民話劇(開拓劇)や余興の演目,接待の仕方,手作りの土産物,食事の献立,その手配に至る細々した事項について,接待する開拓者の方々がどうしたら喜ばれるかなど,行事を行うために丹念な話し合いが行われていた。
意見のやり取りについて,重度の知的障害をもつ人は内容理解するまで繰り返し確認し意見を出していた。仮名文字の理解可能な人は書記に下書きを求め,自分の帳面に書き留め,そこから自分の意見を伝える方法をとっていた。文字板でのやり取りを行う人は居合わせた隣席の参加者が文字版の意見を代読するなど,居合わせたメンバーで補い合うものであった。会議で特徴的なのは,決議事項を一旦,自分のグループホームやストリートの不参加の人たちに説明し,意見を仰ぎ,再度当会議で討議する道程を経ていることであった。合意を取り付けるまでに非常に時間をかけていることがわかった。

成果及び今後の課題

 各自の研究課題は倫理的配慮を要する内容で1年目の当研究会はすべて非公開形式に留めた。各々の研究課題からは,調査対象の個人や集団を通した社会運動の中で,公式には単純に済まされてしまう事項が,実は表には出されなかった,生き暮らしていくことの複雑な事情を含み,さまざまなやり方を営んでいることが,話し合うことにより理解されてきた。また,公式的な部分と非公式な部分を巧みに使い分けて生きていく術を展開していることも,各々の事例から明らかになってきた。
 次年度は研究会内だけの問題解決にとどまらず公にできる部分については公開にし,研究会で打ち出したテーマに関わる実践者をゲストスピーカーやアドヴァイザーとして迎え,社会に開かれた活動にすることを今後の課題とした。

構成メンバー

鈴木 陽子  公共領域院生
岸田 典子  公共領域院生 
篠原 眞紀子 公共領域院生

文学・教育を中心としたフランス語文献講読会

院生代表者

  • 北見 由美

教員責任者

  • 渡辺 公三

企画目的・実施計画

 研究環境の学際化及び国際化がいっそう進む今日、研究対象を相対化し、より広範かつ多量の情報を求めるのに際して、複数領域にまたがる原著文献を参照することはもはや必須となっている。本研究会は、移民大国として文化や社会をはじめ様々な面で問題を提起している現代フランスの諸相を、参加者の研究テーマのコンテクストにおいて検討するために、フランス語文献の読解における正確さと迅速さを向上させることを主たる目的とする。また、コア・エシックスをはじめ発信の機会に積極的に参加し、研究によって得られた学知を広く共有することも試みる。プロジェクト・メンバーは上記の理念を共有した上で、各自の研究テーマであるポスト・コロニアリズム以降の仏文学の役割や、そこでの教育の問題などを考究するものとする。

活動内容

 4月から、文法事項の確認と並行していくつかの文献の講読を進めた。メンバー間のフランス語能力のばらつきを早期に解消するため、学部(卒)レベルの参考書と現代フランス社会にかんする平易なテキストを中心に扱った。また、外部の元院生も参加し、視野の拡大や議論の活性化のみならず、研究に関する情報交換も行う場となった。週に一度のペースで院生のみの勉強会を開き、そこでの問題提起や読解にかんする疑問は、講師参加の際に取り上げた。6月以降、代表者の体調不良により定期的に会を開くことが困難になり、閉会に至った。

成果及び今後の課題

 短期の活動だったが、フランス語文献読解に必要な正確な諸知識、技能習得に努めた。基礎的な文法事項の確認について、いくつかの事項でその目的を達成した。今後の課題としては、この研究会でつかめた学習のペースを崩さず、引き続き個々の研究に生かせる語学力習得に務め、同様の会を再び開催できる機会を得られるよう努力することが挙げられる。

構成メンバー

北見 由美 共生領域・2012年度入学
大野 藍梨 共生領域・2006年度入学
向江 駿佑 表象領域・2015年度編入学

映画を通じて問いなおす「記憶」の形成

院生代表者

  • 梁 説

教員責任者

  • 渡辺 公三

企画目的・実施計画

 【目的】
 本企画の目的は、人々の〈記憶〉を映画(映像)として表出する作品を鑑賞することで、記憶の歴史の描かれ方、記憶の継承のされ方、記憶の変転の有り様を、文学、社会学、人類学といった領域横断的な知見から考察することを目的としている。
 映像作品の制作者は、人々の生活の中の政治・文化・宗教・差別といった数多くの要素が混然としている現実の諸相をありのまま映し出す作品を通して、人文科学がテーマとする〈記憶〉や〈語り〉といった概念の基底となる構造を表出しており、見る側の〈記憶〉についての思考を喚起させる。〈記憶〉という共時・通時を内在する概念について、映画という現代の事象表現から読み解こうとする本プロジェクトの試みは、「表象」理論と実践に挑むものであり、このことは本プロジェクトの意義としてある。また、公開研究会を前提としている点においては、個人では観賞困難な映画作品を広く一般に鑑賞する機会を提供するという点においても意義を備えている。

【実施計画】
 今年度は以下の4つのテーマ設定から、映画上映会と講演会(勉強会)を実施する。
①多文化主義を考える:『人間ピラミッド』(ジャン・ルーシュ、1961)、『La Haine(憎しみ)』(マチュー・カソビッツ、1995)、『移民の記憶』(ヤミナ・ベンギギ、1997)
②水俣を周辺から考える:『もんしぇん』(山本草介、2005)、TVドキュメンタリー作品(現在検討中)
③当事者としての表現を考える:『M』(ニコラス・プリビデラ、2007)
④原一男を見てから考える:『ゆきゆきて神軍』(原一男、1987)、『全身小説家』(原一男、1994)、『極私的エロス恋歌1974ニュー・バージョン』(原一男、1974)、『さようならCP』(原一男、1972)

◆勉強会と講演会の開催
・作品上映に先立ち勉強会の開催と、上映とあわせた講演会を予定。

活動内容

  • 岡村淳監督 ドキュメンタリー上映企画 ―移動と映像、ささやかな闘いの軌跡―の実施。
  • 8月2日(日) 13:00~19:00 於)立命館大学衣笠キャンパス学而館第二研究室
     当初は「水俣を周辺から考える」のテーマで、関連する映画の上映を予定していたが、1987年よりブラジルに移住し、南米の日本人移民(農民運動、在外被爆者)や社会・環境問題(ブラジル水俣病、環境サミット)、動植物の生態・古代遺跡などを撮影してきた岡村淳監督を招聘する機会に恵まれたため、岡村氏の映像作品「神がかりの村山口県嘉年(かね)村物語」(1993/26分)/「常夏から北の国へ 青森・六ヶ所村のブラジル日系花嫁」(1994/26分)/「郷愁は夢のなかで」(2003/155分)の三作を上映し、作品をもとに監督をまじえて討議をおこなった。
     

  • 映画 『Mエム』 「上映会×ゲストトーク」の実施。
  • 2015年11月8日 (日)13:00〜17:10 於)立命館大学衣笠キャンパス 充光館301教室
     1976年、アルゼンチン軍事政権下、突如消息不明になったマルタ・シエラの真相を追った映画の上映を通して、「歴史」「不在」「記憶」の問題について掘り下げた。南米アルゼンチンブエノスアイレスの日系社会を主なフィールドとしながら、アルゼンチンを中心とするラテンアメリカ社会と日本やアジアの近現代の中で、人の存在のあり方、その移動と変遷について多角的な研究を行う石田智恵氏から、アルゼンチンの軍事政権下で起こった惨劇を、世界的/ラテンアメリカ的/アルゼンチン的な時代と社会の文脈から解説いただき、また、その後続くアルゼンチン社会での惨劇への「沈黙」について説明いただきながら、会場との質疑応答や議論を行った。

  • ―予感された… 記憶― 『移民の記憶 -マグレブの遺産-』、『人間ピラミッド』、『La Haine(憎しみ)』:上映会の実施。
  • 2月16日(火)18:30~、2月24日(水)16:00~ 於)Books × Coffee Sol.
     当初は「多文化主義を考える」というテーマで、上記三作の上映を予定していたが、シャルリー・エブド襲撃事件、パリ同時多発テロのフランスの現状を受けて、移民社会・フランスを捉える上映会に設定変更を行った。
     新年早々のシャルリー・エブド襲撃事件から、パリ同時多発テロで幕を閉じた 2015 年、そして2005 年のパリ郊外での若者の暴動… フランスで起こったこれらの事件に通底するものを探すことで、いま起こっている問題をとくための糸口を探る試みの上映会と位置づけ開催した。フランスがここにたどり着いた経緯を民衆の声から検証すること、そして、わたしたちの問題として、現在のヘイト・スピーチにもつながる問題設定の場、議論の場となることを「予感」、 かつ切望し、アカデミックに囲われた(守られた)大学から飛び出した「場」として「Sol.」での上映を行った。フランスにおける移民政策に関する勉強会の開催、映画鑑賞後、参加者による検討会・協議等を行った。

成果及び今後の課題

 本院生プロジェクトでは年間の活動を通じて、共同体から引き裂かれる個人、共同体の引き裂き、その引き裂きの事実を忘却、被覆、変質させるための新しい語りや記憶が創造される様を見てきた。加えて、過去を忘却しきれない人たちが新たな「記憶」と「忘却」の狭間で自己の引き裂きを経験し、その引き裂きをどのように自らの「生」に引き受けてきたのかを考え続けてきた。それは近代という世界構造に、一人の人間が対峙するとはどういうことなのかという問いを私たちに与えた。そこにもう一つの記憶の継承の姿を見いだせるかどうか、この問いを引き受けることが、本研究プロジェクトの課題である。また、当初予定していた原一男氏のドキュメンタリー映画の鑑賞は、立命館大学図書館外での鑑賞が不可という理由により、予算の関係上実施できなかった。今後はより計画的な企画立案を試みる。

構成メンバー

梁 説  共生領域
岩田 京子   共生領域
児嶋 きよみ  共生領域
北見 由美   共生領域
荒木 健哉   共生領域
八木 達祐   共生領域
小田 英里   共生領域

芸術経験と作品存在の哲学的解釈学研究

院生代表者

  • 周 鵬

教員責任者

  • 竹中 悠美

企画目的・実施計画

 本プロジェクトの目的は、ガダマー『真理と方法』の講読を通して、芸術経験や作品について論ずる際の解釈学的方法論を理解することであった。ガダマーの解釈学は20世紀ドイツにおける主要な芸術哲学であり、様々な芸術実践を例に作品の存在論を展開している。彼の解釈学的方法を理解することにより、構成員各自がそれぞれ研究対象にしている芸術・文化に応用して、各自の研究を発展させることができると考えた。
本プロジェクトでは、昨年度に引き続き、講師として大阪歯科大学の石黒義昭先生を招聘して、助言を得ながらHans-Georg Gadamer; Wahrheit und Methode: Grundzüge einer philosophischen Hermeneutik, J.C.B. Mohr, 1960(『真理と方法Ⅰ』轡田収他訳、法政大学出版局、1986)を講読し、理論的背景の把握および主要な概念を理解することを目指した。

活動内容

今年度、本研究会では初めて講師を招いた講演会を開催した。これまで、本研究会では、思想に関わる議論はごく僅かであったため、美学者である谷川渥氏を招いた。この講演会は、美学を含む思想と服飾文化の関係を考えていくことが、本研究会に多大な意義があると考え企画した。
昨年度は、ディスカッションが中心だったため、今年度は、研究会メンバーによる発表を中心に行った。発表内容は服飾史をはじめ、マスメディア、ゲームなど各自の研究に関係するものであった。2016年2月には、昨年度同様に、研究会活動の成果を発表する研究発表会を行った。

  • 第1回研究会
  • 日時:2015年11月3日(火)16時30分から20時30分
    場所:衣笠キャンパス究論館プレゼンテーションルームC
    内容:石黒先生を招聘して、邦訳175頁から180頁を輪読し、関連する論点を議論した。

  • 第2回研究会
  • 日時:2015年11月21日(土)14時30分から18時30分
    場所:衣笠キャンパス創思館411号室
    内容:石黒先生を招聘して、邦訳180頁から185頁を輪読し、関連する論点を議論した。

  • 第3回研究会
  • 日時:2015年12月14日(月)16時30分から20時30分
    場所:衣笠キャンパス究論館プレゼンテーションルームB
    内容:石黒先生を招聘して、邦訳185頁から194頁を輪読し、関連する論点を議論した。

  • 第4回研究会
  • 日時:2016年2月13日(土)14時30分から18時30分
    場所:衣笠キャンパス創思館412号室
    内容:石黒先生を招聘して、邦訳195頁から202頁を輪読し、関連する論点を議論した。

  • 第5回研究会(文芸学研究会第60回研究発表会との共催)
  • 日時:2016年2月20日(土)13時30分から17時30分
    場所:大阪梅田キャンパス5階多目的室
    内容:勝又泰洋(京都大学)「プルータルコス『対比列伝』における語り手の自己呈示と読み手の形成」、茂山忠亮(立命館大学)「武智鉄二の目を通した善竹彌五郎、その芸と人」、中村真(大阪大学)「過渡期の産物としての世紀転換期におけるチェコ人の民謡研究――オタカル・ホスチンスキーのボヘミア民謡研究の方法と理念」 の各発表がなされ、質疑を行った。

成果及び今後の課題

 本プロジェクトの成果として、次の点が挙げられる。第一に、ガダマーが解釈学理論の導入として、時間性のみならず芸術経験がなされる空間を重視しているだろうということが確認できた点である。つまり、芸術を体験する者の経験を出発点にして芸術を考えるときに、その者の生における連続する時間と芸術体験における完結する時間という時間意識の二重性に加えて、その芸術体験が引き起こされる空間的側面をも考慮すべきであることが示唆されている。第二に、ガダマーが例として挙げた諸芸術から議論を発展させ、参加者それぞれが専門とする芸術分野を横断して討論を行い、古典的な議論を現代の研究課題と結びつけることができた点である。昨年度と同様、第5回研究会では文芸学研究会と共催で様々な芸術・文化における最前線の研究発表と質疑を行ったこととあわせて、参加者の視野を広げ、各自の研究に発展させていくきっかけとなったと思われる。
丁寧な読解と活発な議論が行われた反面、講読のスピードが遅かった点は、昨年度に引き続き反省すべき点であろう。しかし、参加者の関心が多岐にわたる研究会であることを鑑みれば、活発に議論することによって一つのテキストにさまざまな視点から光を当てることができたことは、意義があった。反省点を次年度に生かしつつ、今後も参加者の関心に合わせて十分な議論を行っていくことは、各自の研究の発展にとって重要であると考える。

構成メンバー

周 鵬(表象領域・2015年度入学・代表者)
向江 駿佑(表象領域・2015年度入学)
焦 岩(表象領域・2014年度入学)
髙見澤 なごみ(表象領域・2014年度入学)
根岸 貴哉(表象領域・2014年度入学)

現実と仮構のテクノロジー研究会

院生代表者

  • 伊藤 京平

教員責任者

  • 千葉 雅也

企画目的・実施計画

 本研究会の目的は映画・ゲーム・アニメなど様々な作品、すなわち仮構(フィクション)に着目し、その技術や役割を現実のテクノロジーと比較検討することにある。映画中に見られる未来の「ハイテクノロジー」と、現実世界における「テクノロジー」とは大きく異なる場合がある。また、映画中に登場したデバイスの中には、 『バック・トゥー・ザ・フューチャー』に登場したコンピュータに接続可能なメガネの様に、現在のGoogle GlassやOculus Riftの様な技術の前身の技術と言えるほど酷似しているものも存在する。各時代、様々な媒体のフィクションに登場する技術を比較検討し、その特徴・傾向に関する理解を深めながら「フィクションとテクノロジー」の様々な相互関係を考える。

活動内容

 本研究会は不定期に研究会を開催し、映像や書籍を用いたテキストの輪読・ディスカッションもしくは研究発表を行った。本研究会メンバー以外にも関心がある学生に参加を促し、広い見地から議論を行うように心がけた。また、外部で行われる展示会に参加し、報告会を開催する。

  • 2015/5/20〜2015/6/25
  • Daniel C. Denettの“The Mind’s I”を講読した。本書は文学、人工知能、心理学など複数の研究分野における専門的な視点から、自我と意識について様々な考察を行っている。特に第4章では、脳と身体、記憶と人格の継続性に関する小話を通じて、「私はどこにいるのか?」、「私は誰なのか?」という哲学的な問いを展開している。こういった話題は「攻殻機動隊」などのフィクションで扱われているテーマである他、現実でもブレインマシンインターフェースとして研究されている。

  • 2015/12/9
  • 研究会メンバーが映像ミュージアム企画展「あそぶ!ゲーム展」、および奥田栄希「悲しいゲーム展」に参加し、約2時間の報告会を行った。本報告会には研究会メンバー以外の学生も参加し、ゲームの保存手法(現物保存、コードのみの保存)、ゲーム制作者やプロデューサーの名前が表出するようになった要因など、様々な話題について議論した。

成果及び今後の課題

今年度の研究会では、文献講読を中心に、メンバーが参加した展示会の報告会を開催した。ゲーム研究専攻のメンバーがいたこともあり、ビデオゲームの話題が主たるものとなった。メンバーの事情により後期の開催回数が少なくなった。また、現実とフィクションのテクノロジーを扱ったが、比較をする段階にあたらなかったため、これは今後の課題としたい。

構成メンバー

伊藤 京平(先端総合学術研究科 表象領域)
周 鵬(先端総合学術研究科 表象領域)
向江 駿佑(先端総合学術研究科 表象領域)
伊藤 岳史(先端総合学術研究科 生命領域)
後山 剛毅(先端総合学術研究科 表象領域)