スラムツーリズム研究会

院生代表者

  • 八木 達祐

教員責任者

  • 小川 さやか

企画目的・実施計画

 本プロジェクトの企画目的は、世界的に広がるスラムツーリズムの内実とその諸相を整理し、スラムツーリズムの議論の土台を築くことにある。主な実施計画としては、研究メンバーによる文献調査と、公開シンポジウムの開催である。公開シンポジウムでは、前半にアジア・アフリカ・ラテンアメリカ地域を専門とする各者の発表からスラムツーリズムの多様なかたちを表出させる。後半では全体議論を通じて、事例間の異質性や共通性を議論し、あらゆる既存研究との接続のしかたや新たな道筋を導くことを目指す。

活動内容

 特筆すべき活動内容として公開シンポジウム「スラムツーリズムの展開――その多様性と創造性」(2018年8月3日10時00分~16時30分、創思館303・304)の開催が挙げられる。当日はスラムツーリズム研究の中心的な研究者である観光社会学者のファビアン・フレンゼル(University of Leicester)の基調講演に加え、大阪・釜ヶ崎で観光人類学的調査を行ってきた須永和博(獨協大学外国語学部交流文化学科准教授)、開発援助の視点からチリでの人類学的研究・開発プロジェクトを実施してきた内藤順子(早稲田大学理工学術院准教授)による講演と、八木達祐(先端総合学術研究科院生)、佐久間香子(立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員)、福田浩久(先端総合学術研究科院生)による研究発表を行った。
 当日のプログラムとしては、第一部に、「スラムツーリズムの現在」と題して発表者たちによるアジア、アフリカ、ラテンアメリカを横断した個別具体的な調査報告を行い、スラムツーリズムの事例蓄積を目指した。第二部の「スラムツーリズムの外部から――空間・場所・他者」では、各報告者たちのフィールドにおける「他者」との出会いや空間・場所・移動にかんする考察について研究発表を行い、スラムツーリズムでない視点からスラムツーリズムとは何かを改めて議論した。第三部では、「総合討論」へと移り、あらゆる分野の既存研究におけるスラムツーリズムの位置付けや事例間の共通性・異質性、研究対象としての課題や可能性について幅広く議論を行った。

  • 公開シンポジウム「スラムツーリズムの展開――その多様性と創造性」
  • 日時:2018年8月3日(金)10:00~14:50
    場所:立命館大学 衣笠キャンパス 創思館303・304教室

    *詳細はこちら

成果及び今後の課題

 成果としては、公開シンポジウムの開催を通じて、国内で最初のスラムツーリズムに関する総合的な議論の場を設けることができたことが挙げられる。

構成メンバー

・八木 達祐
・荒木 健哉
・小田 英里
・酒向 渓一郎

精神医療史・医学史研究会

院生代表者

  • 幸 信歩

教員責任者

  • 松原 洋子

企画目的・実施計画

目的:精神医学者の呉秀三が、明治・大正期に調査した精神障害者の「私宅監置」の状況を報告してから、今年で100年となる。この報告論文「精神病者私宅監置ノ実況及ビ統計的観察」(1918年)は大きな反響をよび、翌年の精神病院法制定につながった。日本では法律の制定や改正を通して、精神医療保健の改善に向けた試みが行なわれ、「入院医療中心から地域生活中心へ」という方策を打ち立てた。しかし、30万床にのぼる日本の精神科病床数は現在でも世界一であり、未だに自宅監置の事件や精神科病院での拘束による死亡が報告されている。そこで、日本の精神医療と脱施設化に成功したイタリア共和国の精神医療への取り組みを比較し、日本の脱施設化がすすまない理由について問題点を挙げながら考察する。
方法:今秋に来日する精神科医イヴォンヌ・ドネガーニ氏(精神科医/ボローニャ精神保健局元局長)を招き、講演会を行なう。ドネガーニ氏は、精神科医療の脱施設化を目指す「精神病院を無くす法律」(180号法 通称バザーリア法)制定に向けてボローニャ市行政や専門職の意見を集約し、脱施設化への方向性を定める実践に携わってきたことで知られる。この講演会の成果をふまえて、精神障害者が地域で暮らす環境についての日本とイタリアの相違を研究する。

活動内容

講演会
第1回目

  • 開催日時  2018年9月29日 14時半~15時半
  • テーマ 「イタリア・ボローニャでの精神障がい者と地域との共生の歩み―よりあたりまえな地域社会の実現に向けて―」
  • 講師   イヴォンヌ・ドネガーニ氏(精神科医/ボローニャ精神保健局元局長)
  • 通訳   栗原和美(イタリア国立ミラノ大学 哲学専攻  東京ソテリア所属)
  • 場所   福井メトロ劇場(会場所在地:福井県福井市順化1-2-14)
  • *詳細はこちら(Facebook)

第2回目

  • 開催日時  2018年9月30日 9時15分~12時
  • テーマ 「この国に生まれたる不幸を重ねないために―座敷牢から地域での暮らしへ―」
  • 講師  イヴォンヌ・ドネガーニ氏(精神科医/ボローニャ精神保健局元局長)
  • 通訳   栗原和美(イタリア国立ミラノ大学 哲学専攻  東京ソテリア所属)
  • 場所   福井市地域交流プラザ・アオッサ会議室(福井県福井市手寄1丁目4-1 AOSSA5F)

第3回目

  • 開催日時  2018年9月30日 14時半~15時半
  • テーマ 「日本のこれからの精神医療保健の方向性は?×イタリアの勇気」
  • 講師   イヴォンヌ・ドネガーニ氏(精神科医/ボローニャ精神保健局元局長)
  • 通訳   栗原和美(イタリア国立ミラノ大学 哲学専攻  東京ソテリア所属)
  • 場所   福井メトロ劇場(会場所在地:福井県福井市順化1-2-14)
  • *詳細はこちら(Facebook)

成果及び今後の課題

第1回目
・参加人数 135名
第2回目
・参加人数 50名
第3回目
・参加人数 110名

会場から、当事者の切実な意見や医療従事者からの日頃の思いが語られ、講師の講演を聞くだけではなく会場が一体となった。地域一般の人も含めて、さまざまな立場の人々が参加され、歴史の事実を知り、一人ひとりが、今とこれからをつなぐ担い手である意識が深まる切っ掛けとなった。

構成メンバー

・柳田 千尋
・三浦 藍
・駒澤 真由美
・伊東 香純
・桐原 尚之
・寺前 晏治
・舘澤 謙蔵
・西田 美紀
・戸田 真里
・幸 信歩

重度障害者の空港及び航空機等における円滑な移動を促進する調査

院生代表者

  • 桐原 尚之

教員責任者

  • 立岩 真也

企画目的・実施計画

 本研究プロジェクトは、空港及び航空機等を対象とした重度障害者の円滑な移動を促進するために必要な実態把握をおこなうことを目的とする。
 2018年5月18日、いくつかの課題を残しつつ高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を見直す法案(以下「改正バリアフリー法」とする。)が7年ぶりに改正され成立した。5月8日の参議院本会議では、筋萎縮性側索硬化症(以下、「ALS」とする。)の人の空港及び航空機等の利用をめぐる問題について審議がおこなわれ課題があきらかにされた。例えば、座位を保てない人が搭乗できるようなプランは少なく、割引チケットなどの選択肢もないため、いずれも高額となっていること、また、人工呼吸器ユーザーはたくさんの機器を必要とし、それを持ち込むために事前に診断書を付けて申請しているが、それでも保安検査場において機器を解体されることなどがそうである。
 しかし、これらの課題は、改正バリアフリー法での解決が見送られ、次の改正まで先送りにされることとなった。そのため、次の改正で課題を解決するためには、課題の整理と実態把握が必要不可欠である。そこでALSの人の飛行機利用における実態の調査をおこなった。

活動内容

2018年9月7日に参議院議員会館にて「ALSの航空バリアフリー研究会」を開催した。

日 時: 2018年9月7日(金)13時から16時
場 所: 参議院議員会館 地下1階・103室
共 催: ALSの航空機利用におけるバリアフリー研究会

プログラム
第一部 (13:00~14:00)
・空港及び航空機の利用についてALS当事者の経験(増田英明 佐川優子 岡部宏生)
第二部 (14:00~15:00)
 ・改正バリアフリー法及び改正航空法の制度説明
  (国土交通省総合政策局安心生活政策課 同省航空局航空ネットワーク企画課 同省航空局航空事業課)
 ・川田龍平参議院議員の取り組み

・2018年9月13日
川口有美子さんにALSの人の飛行機の利用実態を聞き取り調査した。空港の保安検査場における医療機器の取扱いに関する事例を聴き取りした。要人訪問などで警備が強化されていると医療機器を分解されることがあることがわかった。事前に航空会社と空港の保安検査場の連携関係について調査したところ、航空会社が同行して医療機器について説明できたとしても、保安検査場は保安検査場の判断で分解してしまうことを妨げないため、解決策がほとんどないことがわかった。

・2018年11月8日
川口有美子さんにALSの人の飛行機の利用実態を聞き取り調査した。北海道において天候上の理由で飛行機が飛ばないトラブルにあった経験や機内で飛行中にシートベルト着用サインが出ている状態で人工呼吸器が外れて転がっていったのを拾いに行こうとしたら着席を求められた話しなどを聴くことができた。

・2018年11月26日
川田龍平参議院議員が2018年6月におこなった各主要な空港(羽田T1、T2、羽田国際、成田T1、T2、T3、関空T1、T2、伊丹、中部、福岡、新千歳、那覇)における担架、ストレッチャー、リクライニング車椅子、車椅子の設置状況、それぞれ機内利用可の設置状況について、当研究会が自主的に追跡調査をおこうことを決めた。

・2018年12月4日
エアカナダが国際線のビジネスクラスとストレッチャー席に障害者割引を適用させていることがわかった。調査のため実際にエアカナダを利用するALSの人がいないか打ち合わせをおこない実現可能性の高そうな候補者を絞り込むことができた。調査の実施は今年度中には難しいが、調査の目途を立てることまでは実現できた。

・2019年2月13日
 京都市障害者自立支援協議会権利擁護部会に出席し、日本ALS協会近畿ブロック増田英明会長の活動を参与観察した。飛行機を使用する上での課題が「障害に基づく差別」という観点で行政上の手続きにのっていることが明らかになった。

成果及び今後の課題

 ALSの人をはじめとする重度障害者の空港及び航空機等における円滑な移動を促進するため、何が課題であり、どう取り組むべきであるかを重点事項にまとめ明らかにした。
・実際にALSの人が海外旅行に行くための予算の獲得し、渡航を支援・調査する。とりわけてビジネス席に障害者割引を採用しているエアカナダへの搭乗と調査を目指す。
・改正バリアフリー法に基づく市町村の協議の場に当事者の参画を促していく。そのため、モデルケースの紹介や参画状況の実態把握をおこなう。
・航空機利用等におけるALSの人の困りごと・工夫などのエピソードを集積し、報告書にまとめていく。
・改正バリアフリー法の接遇と研修について当事者を中心とした研修コンテンツを作成し、当事者が研修を担えるようにしていく。なお、これによって客室乗務員による人工呼吸器の取り扱いや保安検査場での医療機器の取り扱いの問題の解決を目指す。
・空港における担架、リクライニング式車椅子、ストレッチャー等の設置状況を毎年調べて公表する。必要に応じて空港に設置要求を出していく。
・航空会社にストレッチャー料金等の見直しを求めていく。具体的には、川田龍平参議院議員による働きかけと京都市による働きかけであり、その記録をとる。また、各航空会社のストレッチャー料金及びビジネスシートの障害者割引について調査をおこなう。

構成メンバー

・桐原 尚之
・西田 美紀
・戸田 真里
・舘澤 謙蔵

東アジア・メディアデザイン研究会/Study Group of Media Design in East Asia /东亚媒体设计研究会

院生代表者

  • 張 憲

教員責任者

  • 竹中 悠美

企画目的・実施計画

 本研究プロジェクトの目的は日本、中国、台湾、韓国を中心とした東アジア地域における多様な美術、工芸、ファション、デザイン、サブカルチャーを各々メディアでありかつデザインとしての観点から学際的・包括的に研究することである。研究内容は以下である。東アジアというこの地域は古来よりヒト、モノ、情報の移動を通じて、濃密な文化的交流を持っていたが、その研究は従来ディシプリンごとに細分化されていた。本研究は、ジャンルを越えて現在の情報化社会と深刻な経済の国際化と伴い、欧米との連関から見る当代の東アジアのメディア表象がどのように伝統的な視覚文化と融合あるいは断絶しているのかについて研究して行く。方法として、中国のメディアデザインの研究者を招き、中国の最先端なメディアデザイン活動についての情報、そしてそれが欧米やアジアの伝統とどう関わっているのかについて明らかにしていく。このような国際的なワークショップを行うことによって、国際交流・情報交換ができ、東アジアや欧米といった地域を越境した総合的な視野と理論を提示し、各分野・地域の研究連携が促進されることが本研究プロジェクトの意義である。

活動内容

 2018年度前期においては、各メンバーの専門領域の視点から日本、中国、台湾、韓国等の東アジア地域のメディア・デザインについて、資料を精読するため研究会を行いました。次に2018年12月14日(金)に、公開ワークショップ“Open Workshop Media Design in East Asia”を開した。本研究会のメンバー4名による研究報告、及び张宜平氏の招待講演を開催した。研究報告は次の通りである。李君宜(表象領域)“The History of Wuxia Game”、枝木妙子(表象領域)“The Fashion of MONPE as Emergency Clothes”、Ting Xu(公共領域)“Interactive Media Art—Conception, Application, Target Group, Outlook”、張憲(表象領域)“Overview of the Yangjiabu New Year Poster”。招待講演は、張宜平 (Professor of Brand Academy, Hochschule für Design und Kommunikation, University of Applied Sciences/浙江万里学院中德设计与传播学院院長)“Brave New World – the aesthetical and ethical dilemma of digital design”。研究報告と講演会に続いて、来場者を含めたディスカッションを行い、活発に議論することができた。また、ワークショップのほか、平和ミュージアム、修学院離宮、京都国立近代美術館や角屋もてなしの文化美術館へフィールドトリップを実施し、展覧会、建築について講師と話し合うことができた。
 2019年3月8日に、第14回大阪アジアン映画祭(2019年3月8日〜3月17日)の見学を実施した。アジア各地域(香港、日本、韓国)の映画を鑑賞し、上映前/後の監督、役者のトークを通じ、国際交流・情報交換ができ、東アジア地域のメディアについてより深い理解ができた。

  • 東アジア・メディアデザイン研究会 ワークショップ Open Workshop Media Design in East Asia
  • 日時:2018年12月14日(金)13:00〜18:00
    場所:立命館大学衣笠キャンパス 究論館カンファレンスルームB・C

    *詳細はこちら

成果及び今後の課題

 「活動内容」で述べたように、国際的ワークショップやフィールドワークの開催を通じ、最先端なメディアデザイン活動についての情報を吸収し、国際交流・情報交換ができ、東アジアや欧米といった地域を越境した総合的な視野と理論を提示し、各分野・地域の研究連携が促進されることができた。
 本研究プロジェクトは発展的に、招聘する講師の生徒、研究者そして研究施設等と積極的に情報交換を行うことになり、今後の新たな研究交流の開拓を進めるためのプラットフォームともなりうる。例えば、今回講師として招聘した張宜平先生は学術研究だけでなく、イギリスそしてドイツのデザイン会社や、ドイツのハンブルク文化局、ハンブルク市歴史博物館などのデザイナーの経験を持ち、ドイツやイギリスと連携してメディアデザインの学術的研究に不可欠な過去の視覚文化の実践について考察する絶好の機会である。また、国際的ワークショップは英語で実施することによって、研究会メンバーの英語力のスキルアップも期待できる。

構成メンバー

・張憲
・枝木妙子 
・高見澤なごみ
・李怡君
・XU TING
・橋本真佐子

エージェンシー研究会

院生代表者

  • 今里基(春季)→荒木健哉(秋季)

教員責任者

  • 小川さやか

企画目的・実施計画

近年の文化人類学における大きな変化としてアクター・ネットワーク論の浸透があげられる。例えば、B.ラトゥールは、近代的な認識論である、主体/客体、人間/非‐人間といった枠組みを批判し、人間と非‐人間間の対称性を強調する。こうした認識は、人間だけでなく「もの」にも主体性を認め、人間と「もの」が織りなす複雑なネットワークへと関心を向ける必要性を訴えた。今日の人類学における「存在論的転回」(ontological turn)の動きは、こうした理論の浸透の表れといえる。こうした研究動向におけるキーワードのひとつは「エージェンシー」である。人間/非-人間を問わず、対他的に作用する存在をエージェンシーとして把握することは、人類学における西洋的認識論を根本的に変革する可能性を秘めている。今後は、こうした観点から民族誌を記述することは不可欠になることが予想される。そこで本研究会では、①近年の人類学におけるエージェンシーに関する文献を読むことでエージェンシー研究についての動向を把握し、②これらの研究における課題を抽出、批判し、③自らの研究で応用可能にすることを目的とする。

活動内容

以下の日程で輪読会の実施。Daniel Miller Material Cultures(1999)とAlfred Gell Art and Agency(1998)の二つの文献を章ごとに担当者を決め翻訳し、研究会ではその翻訳を基にして議論をした。

2018年7月23日第一回開催 輪読する文献及び、担当者を決定
2018年8月3日第二回開催(担当 酒向)
2018年8月28日第三回開催(担当 荒木)
2018年9月11日第回開催(担当 小田)
2018年9月20日第四回開催(担当 八木)
2018年9月27日第五回開催(担当 今里)

成果及び今後の課題

本研究会で用いた、Material culturesArt and Agencyの二つの文献は邦訳されていないが、現在の人類学における物質文化論やエージェンシー論に強く影響を与えている文献である。その二つの文献を基にした議論を行い得られた知見は、今日の人類学内の理論動向の転重要な転換点の1つを研究会構成メンバーに再確認させ、フィールドワークを含む研究会構成メンバーの個々の研究活動に一定の貢献を果たした。引き続き研究会を行い、参加メンバーの都合から中途で終わった『Art and Agency』の翻訳、また『Material Cultures』や『Art and Agency』の議論が今日の人類学においてどのように受容され、批判されてきたかをめぐる議論を検討することを今後の課題としたい。

構成メンバー

・今里 基
・荒木 健哉
・八木 達祐
・小田 英里
・福田 浩久
・酒向 渓一郎

ディアスポラの文化経済的実践としてのグローバルシネマ研究会

院生代表者

  • 権藤千恵

教員責任者

  • 岸政彦

企画目的・実施計画

 本研究の目的は、ディアスポラ(華僑、越僑等移民)の受入国における文化経済活動について、映画を事例に議論し越境する人々と文化経済活動、さらに活動から生み出された「モノ」のグローバル展開について明らかにすることである。
 本プロジェクトでは今年度はケーススタディとしてベトナムにおける帰国越僑の映画製作活動を取り扱った。現代ベトナム映画を牽引する帰国越僑のメディア実践(映画制作)を通じて、1)越僑の文化活動はどのように行われてきたのか2)越僑たちはなぜ祖国への移動とメディア実践を選んだのか 3)共にメディア実践を行う人々のネットワークはどのように形成されたのかについて明らかにし、ディアスポラが生み出すモノの移動としての映画=グローバルシネマについて地域研究、移民研究、人類学、社会学等、様々なディシプリンから読み解くことである。当初の実施計画は、
1.  春セメスター~夏休み
・ 研究会(研究分担/先行研究に関するディスカッション)、ベトナム映画上映+研究会の実施(3回程度)
・ 論文講読
2.  秋セメスター以降
シンポジウムの開催(小~中規模なもの。予算を鑑みて今年度はベトナムからの招聘を検討)
であった。

活動内容

 本研究の活動は春・夏セメスターから秋セメスターにかけては日本で見ることができるベトナム映画を鑑賞し、監督とのオンラインカンファレンスによるヒアリングを実施した。今年度は『ベトナムの怪しい彼女』(2016年 ベトナム)を事例に、監督のファン・ザー・ニャット・リン監督から現在のベトナム映画、映画産業の状況、越僑との関わりなどについて話を伺った。
 秋に予定していたシンポジウムについては国際平和ミュージアムと共同でベトナム映画のフィルム上映を実施したことから
・ベトナム映画上映会 ダン・ニャット・ミン『サイゴンの少女ニュン』 2018年12月4日(火)実施
・オープンワークショップ『かわいいはベトナム!』2018年12月5日(水)実施
を開催する運びとなった。講師にはベトナムで映画プロデューサーとして多くの実績を持つJenni Trang Le氏を招聘し、話を伺った。

  • 公開研究会「かわいいはベトナム!──かわいいから探るベトナムのこれまでとこれから」
  • 日時:2018年12月5日(水) 18:30開場 19:00開始
    場所:MTRL京都(マテリアル京都)
    【スピーカー】
    ジェニー・チャン・レ(映画「The Rebel 反逆者」「ホイにおまかせ」プロデューサー)
    トミザワ ユキ(料理研究家)
    西澤智子(写真家)

    *詳細はこちら

成果及び今後の課題

 今年度は12月に実施したイベントを中心に活動を行った。対して文献購読などの研究会についてあまり定期的に実施することができなかったことが反省点となる。
 成果は大きく2点ある。ひとつは、ベトナムというフォールドを通じて帰国越僑—ディアスポラの視点を生の声を通じて理解することができたことである。帰国越僑が歴史や文化を越えてアメリカやフランスからもたらした「モノ」が映画という表象を通じてベトナムの文化へと融合されているベトナムの今の姿を体感することができたことは大きな収穫であった。
計画時に提示した3つの問いについても触れておきたい。1)越僑の文化活動はどのように行われてきたのか については、ゲスト招聘したJenni Trang Le氏の言葉を借りれば「アメリカのベトナム系アメリカ人コミュニティがきっかけとなった」ということになる。北米特にLe氏の出身校UCLAがあるロサンゼルスとその近郊にはベトナム系アメリカ人のコミュニティがあり、エスニックコミュニティ毎の映画や演劇活動が盛んに行われていた背景がある 2)越僑たちはなぜ祖国への移動とメディア実践を選んだのか、については1)と同様にベトナム系アメリカ人の映画製作者たちが2000年頃からベトナムでの映画製作に乗り出したことがきっかけであると考えられる 3)共にメディア実践を行う人々のネットワークは1)2)が背景にあると想定される。しかしながら、あくまで今回の考察はあくまでアメリカの帰国越僑を事例にしたものであり、フランスや他国では状況が異なると考えられる。ベトナムでの映画製作・メディア製作をめぐる多様なコミュニティについては継続して研究を進めたい。
 もう1つの成果は映画フィルムの発掘である。計画時は想定していなかったが、立命館大学が所蔵するベトナム戦争期の16ミリフィルムをフィルム上映することができたことは、本研究会のもうひとつの成果となった。今回上映した『サイゴンの少女ニュン (Chi Nhung)』はベトナムを代表する映画監督であるダン・ニャット・ミンがベトナム戦争期に共同監督を務めた北ベトナム製作のプロパガンダ映画である。ダン・ニャット・ミンの作品はベトナム戦争を扱ったものやベトナム国家の共産的なイデオロギーを謳ったものが多いが『市井の人々を描く』というダンの映画の姿勢は今回上映した『サイゴンの少女ニュン』にも見て取れた。現代ベトナムの歴史を映画を通じて体験してきたダン映画の初期作は『10月になれば』『グァバの季節』などの後年の傑作を同時に読み解くことでベトナム戦争下のプロパガンダ映画をより深く読み解くきっかけになるだろう。なお『サイゴンの少女ニュン』の16ミリフィルムについては、保存状態は良好であったが、字幕については16ミリへのプリント時から読みにくくなっていたこともあり、プロジェクトとして字幕のデジタルデータを作成する作業に協力した。

 映画にまつわる研究は映画論や作家論を想起しがちであるが、本研究会のように映画に関わる人々を追う社会学的なアプローチも存在する。今後も移民やトランスナショナルな人々について、映画を通して考察する手段として、本研究会のような研究グループでの活動を継続したいと考えている。

構成メンバー

・権藤 千恵 
・浅山 太一 
・今里 基
・OUYANG Shanshan
・酒向 渓一郎
・長島 史織
・Lu Zhihao

映像人類学(センサリーメディア)研究会

院生代表者

  • 福田浩久

教員責任者

  • 小川さやか

企画目的・実施計画

 映像という形態が研究報告/調査方法/研究報告の一形態一つとして人類学に登場し、認知されるようになってからは久しい。しかしテクストと比較すると、いまだに映像は限られた研究者たちによる部分的な手法としての位置に留まっており、研究の深化とその他の研究者たちのへの普及・「理解」との間には乖離があるようにもみえる。本研究プロジェクトではその乖離を少しでも埋めることで研究メンバーが、1)映像人類学の展開を人類学史やエスグラフィとの関係から理論的に学びぶこと、2)メディア映像制作の実践を通じて調査・研究報告ができるかたちにすることを目的とする。そのために読書会と講師招聘と実習の三様の学びの場を企画した。

活動内容

 読書会ではDavid MacDougall Corporeal Image (2005) を精読のうえ、議論した。またインプットが「読む」だけでは片手落ちで「観る」必要があるので、ほぼ定期の上映会も実施している。講師は第一回に松本工房の松本久木氏を招いて、写真を編集するということについて専門家の視点から語ってもらった。第二回には小田マサノリ/イルコモンズ氏を招き、映像を編集することについてのレクチャーと実習を二日間に渡ってしてもらった。またグループに分かれての映像撮影、編集、上映講評会も実施した。

  • New!映像編集ワークショップ開催
  • 立命館大学の映像人類学院生プロジェクトでは3/18,19の2日間にかけて小田昌教/イルコモンズ先生を講師に迎えて映像編集のワークショップをします。初日はレクチャー、2日目が実習となり、映像のリテラシーを知識として身につけるとともに、実習を通じて身体的な理解を促す、21世紀の知の基礎講座になります。

    【タイトル】立命館映像編集ワークショップ
    【講師】小田昌教/イルコモンズ 
    【日時】3/18(月) 14:00-17:00頃 レクチャー
    3/19(火) 14:00-17:00頃 実習
    【場所】立命館大学 衣笠キャンパス 有心館YS201
    【参加人数】10名程度
    【授業内容】このワークショップは、映像制作の「ハウツー」だけでなく、映像に関する知識と「リテラシー」を身につけながら、映像制作の「スキル」とそのたのしさを学ぶものです。具体的には「映画」のはじまりの時代から使われてきた編集術や特殊効果を、映像編集ソフトで体験することで、映像制作の基本を身につけます。まずはじめに、これまで一度も映像を制作したことのない人でも簡単にはじめられるように、YouTubeがネット上で提供している「YouTube動画エディタ」を使って、初歩的な編集を体験します。次に、パソコンのOSに付属している映像編集フリーソフトを使い、基本的な特殊効果を学びます。さらに、編集ソフト「AdobePremierePro」を使い、自分が表現したいものを映像化する「テクニック」を身につけます。

    【到達目標】「20世紀は人類がはじめて歴史を「動く映像」として見ることができた最初の世紀」であったことから「映像の世紀」と呼ばれました。20世紀の映像は、主に映画館やテレビのスクリーンで見るものでしたが、メディアの発達と多様化により、今ではパソコンをはじめ、携帯電話やスマートメディアのディスプレイで見るものとなり、あらゆる場所に映像があふれています。いまや映像は「メディア」のための「コンテンツ」とされ、消費されるものとなりました。私たちは、日常のささいな出来事まで「動く映像」として見る「二番目の映像の世紀」を生きていて、「最初の映像の世紀」の人たちが体験した驚きや感動を感じることはありません。このワークショップは、「はじめて映画を見た人たち」や「はじめて映画をつくった子どもたち」の姿を見ることからはじめます。そして「映像の最初の世紀」を生きた映画作家たちの思索や実験をふりかえりながら、それを追体験することで、もう一度、映像に向かい合いたいと思います。「映像の再発見」は、私たちの身のまわりの世界や人生の見方を変えるかもしれません。

    【事前・事後学習】ワークショップで紹介した映画やヴィデオを、ネットの「映像アーカイヴ」や「動画配信サイト」で見て、予習・復習をしてください。

    ▪️参加希望の方は以下のアンケートに回答のうえ、ふくだぺろ/福田浩久 isthisapen7(at)gmail.com ((at)を@に置き換える)までメールください。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    氏名
    所属
    専攻分野・研究テーマ
    映像でなにをしたいか
    撮影経験
    編集経験
    使ったことがある編集ソフト
    好きな映画作品(5本程度)
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ▪️シラバス

    ▪️参考資料:データを視覚化することの重要性を示す一例

成果及び今後の課題

基礎的な理論と実践は今年度でメンバーそれぞれ身についた。また先端研に限らず、立命館の映像研究科や京都大学も巻き込んで、映像人類学に関心を持つ人間にとってのハブとして本研究会が機能していることは今年度の達成といえる。一方で本研究会の達成を点で終わらせず、線に、面に拡大するには継続と更なる広がりが必要になる。そのためにはメンバーの要望にもよるが、より体系立てたカリキュラムが必要になると思われる。

構成メンバー

・福田 浩久 
・小田 英里 
・荒木 健哉
・今里 基
・八木 達祐
・酒向 渓一郎

高等教育における障害者研究会

院生代表者

  • 高雅郁

教員責任者

  • 立岩真也

企画目的・実施計画

【目的】本研究会の目的は、大学における障害者(障害学生)の実態および支援体制を明らかにすることである。特に外見からはわからず、申告しなければ支援を得にくい障害(発達障害、吃音、精神疾患など)に注目する。

【内容と方法】本研究会の内容および方法は3つの活動で構成される。
①先行研究と現状に関するサーベイ:障害学生の支援に関する先行研究と現状についてサーベイを行う。具体的には、国内外の大学(その他高等教育機関)での障害学生支援や、教育現場における合理的配慮に関する研究・資料を収集し輪読(必要に応じて翻訳作業など)を行う。

②全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN)の大会への参加:AHEAD JAPANは2014年に設立された、日本における大学に進学した障害学生支援に関する研究などを牽引する拠点的な組織である。2018年6月28-30日に行われるAHEAD JAPANの第四回大会に参加し、高等教育機関における学生支援について情報収集を行う。

③報告会の開催:サーベイ・大会参加で得た情報をまとめ報告会を行う。その際、立命館大学の障害学生支援室のスタッフの方や障害学生支援に興味のある方をお招きして、情報交換・交流する。

活動内容

①研究会開催:先行研究のサーベイと検討を目的とした研究会を4回行った。

  • 第1回:2018年6月12日(火)15:00-16:00
        創思館3階ラウンジ
  • 第2回:2018年7月23日(月)10:00-12:00
        究論館1階
  • 第3回:2018年8月20日(月)13:00-15:30
        究論館1階プレゼンテーションルームC
  • 第4回:2018年9月25日(火)15:00-17:30
        究論館1階プレゼンテーションルームC

②学会参加:

  • 学会名:全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN)第4回大会
  • 日程:2018年6月28日―30日(木‐土)
  • 会場:国立オリンピック記念青少年総合センター カルチャー棟・センター棟
  • 内容:各テーマの講演会(教育や法律など)と分科会(地域支援との連携、科技技術の運用、コーディネーターの役割、発達障害の学生に対する就労移行支援など)に参加して、現在の障害のある学生に支援の動向や悩み・問題に関する理解を深めた。会場で配布された資料の収集にも成功し、一部はPDFファイル化した。また、会場では、実際に各大学で障害学生を支援する方々から現場の話を伺い、交流を行った。

③障害学生支援室へ訪問:

  • 日程:2018年7月3日(火)17:00-17:45
  • 会場:立命館大学障害学生支援室
  • 内容:立命館大学障害学生支援室の職員を訪問し、支援室のシステムや役割について伺った。

④研修会に参加:

  • 会名:避難において困難が予想される学生などの災害時対応における研修会
  • 日程:2018年7月19日(木)17:00-19:00
  • 会場:立命館大学衣笠キャンパス至徳館102会議室
  • 内容:立命館大学総務部及び障害学生支援室共催して、特定非営利活動法人ヒューマンネットワーク熊本の研究員である吉村千恵先生を招待し、講演会を行い、討論した。吉村先生には、2016年4月に熊本地震発生以来、熊本学園大学にて健常者と障害者のインクルーシブ避難所の開設を支援したことや、障害のある学生の個別避難計画の作成と練習、学内での避難所シミュレーションの訓練の実施などについて講演いただいた。

⑤国際ワークショップ参加:

  • 会名:「立命館大学における障害学生支援の研究と実践――情報アクセシビリティを中心に」
  • 日程:2019年3月14日(木)
  • 会場:立命館大学衣笠キャンパス、平井嘉一郎記念図書館1Fぴあら
  • 内容:立命館大学人間科学研究所プロジェクトが主催、ダスキンアジア太平洋障害者リーダー育成事業のブータンからのヨンテン・ジャムソンさんの研修の一環として、植村要さん(立命館大学人間科学研究所客員研究員)が「プリント・ディスアビリティと図書館のアクセシビリティ」について、また、小中啓司さん(立命館大学図書館利用支援課)が「立命館大学のテキストデータ提供サービス」について話した。ヨンテンさんもブータンの視覚障害者の情報アクセシビリティについて話した。本研究会からも2名が参加し、情報アクセシビリティについて議論を行った。

成果及び今後の課題

 本研究会は、1年を通じて、精力的に障害学生支援の現状について情報収集を行った。その結果、高等教育にいる様々なニーズや障害のある学生に対する、基本的な支援の体制や現在実施可能な支援方法を学ぶことができた。小規模校と大規模校の支援体制の差異、文系と理系の学生に対する支援方法の差異、支援者の専門性や資格、及び学校と他機関の連携などの要素を念頭に入れ、今後も支援方法に関する研究を進めていなければならない。そして、災害時に、障害者を始めとする避難が困難な学生に向けた支援や準備、特定の障害特徴がある学生(例:視覚障害者)向けの情報アクセシビリティについても理解してきた。
 本研究会は概ね計画にそって活動を進め、予算を執行した。しかし、2018年11月頃から構成メンバー各人の研究や就労の都合のために、研究会の日程を調整することが著しく困難になるという問題が発生した。2019年度の活動について話し合った結果、当初予定していた報告会等の実施が現実的ではないという認識を共有し、2018年度で高等教育における障害者研究会としての活動を終了するという合意に至った。今後は各人のペースや研究課題に沿う形で研究を継続していく。

構成メンバー

・高 雅郁 
・橋本 雄太 
・高木 美歩