Core Ethics Vol.10

立命館大学大学院先端総合学術研究科
『Core Ethics』Vol.10 2014年

Core Ethics Vol.10 cover
目次 PDF<224KB>
奥付 PDF<55KB>
正誤表 PDF<KB>
English


論文

統合失調症の娘を抱える父親のライフストーリー
――個人の複雑な生の一端を捉えるために―― 
青木 秀光 p.1
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対立型コミュニケーションと服従的説得型コミュニケーションにおける通訳者の中立性の考察
飯田 奈美子 p.13
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わが国におけるHPVワクチン副反応続出の要因に関する研究
――HPVワクチン導入期のWHO, FDA, PMDA,厚生労働省の見解の検討――
岩谷 澄香 p.25
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M.コンデの『移り住む心たち』における「乳白化願望」とハイブリッド
大野 藍梨 p.37
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美術作品を享受する触覚の誕生
――英米におけるふたつの実践からの一考察――
鹿島 萌子 p.49
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ろう児のためのフリースクール「龍の子学園」開校前史
クァク・ジョンナン p.61
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重症心身障害児施設の黎明期
――島田療育園の創設と法制化―― 
窪田 好恵 p.73
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ヴェトナムハノイILセンター設立経緯と運営展望における諸問題
権藤 眞由美 p.85
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臨床試験計画への患者の関与
――脊髄損傷者への再生医療に着目して―― 
坂井 めぐみ p.97
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社会貢献としての病いの語り
――精神障害当事者による福祉教育の「場」に着目して――
栄 セツコ p.109
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障害の社会モデルは解放の思想か?
――精神障害のとらえがたさをめぐって―― 
白田 幸治 p.121
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日本における人工内耳(治療)の導入が聴覚障害教育に与えた影響
――1970年代から1990年代までの日本の状況――
田中 多賀子 p.131
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均衡理論における時間概念の非両立性について 
椿井 真也 p.143
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発話困難な重度身体障がい者における通訳者の「専門性」と「個別性」について
――天畠大輔の事例を通して――
天畠 大輔・黒田 宗矢 p.155
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京都過労死家族会と京都職対連運動 
中嶌 清美 p.167
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障害者施策の変遷と相談支援・1996年─2000年
萩原 浩史 p.179
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赤ちゃん人形を媒介した認知症高齢者とのコミュニケーション
――セッション場面における言動の分析――
畑野 相子 p.191
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大陸系中華学校による国際化・多文化化への試み
――横浜山手中華学校と神戸中華同文学校を事例に――
馬場 裕子 p.203
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客を取り込む社交のゲーム
――京都花街における女将の戦略から――
松田 有紀子 p.215
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明治期髙島屋貿易店の活動にみる百貨店としてのイメージ戦略の萌芽
山本 真紗子 p.227
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研究ノート

神谷美恵子の長島愛生園における実践からの一考察
――神谷美恵子の診療録から見えるもの――
田中 真美 p.239
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高橋晄正の薬効の科学的検証と『薬のひろば』の活動 
松枝 亜希子 p.251
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ろう研究会

院生代表者

  • クァク・ジョンナン

教員責任者

  • 立岩 真也

企画目的・実施計画

 本研究は、聞こえない・聞こえにくい子ども(ひと)の教育・言語・医療の議論・実践の変遷について、デフ・スタディーズ、障害学、社会言語学から考察することを目的とする。具体的には聴覚障害教育の分野で注目されている文献の精読を行いながら、互いの関心を共有するとともに、意見交換を通して問題意識を深めることを目指す。また、多様化した聴覚障害児者の教育・コミュニケーションの実施現場を調査し、現状の把握と分析に力を入れる。

活動内容

  • 第1回:打ち合わせ
    2013年4月16日(火)13:00-16:00、立命館大学衣笠キャンパス創思館416号
  • 第2回:博士論文構想発表会の検討会
    2013年7月16日(火)14:00-17:00、立命館大学衣笠キャンパス創思館416号
    題名:「日本の聴覚障害教育における人工内耳の受けとめ方の変遷」

  • 第3回:ろう大会に参加
    「第25会ろう教育を考える全国討論集会in長崎」に参加、2013年8月16日(金)-2013年8月18日(日)、長崎市、長崎大学文教キャンパス
  • 第4回:公開企画
    「聴覚障害に関わる研究を進める上での倫理と配慮のあり方」
    2013年12月23日(月)14時-17時、立命館大学衣笠キャンパス学而館201号
    講師: 甲斐更紗
  • 第5回:読書会
    大沼直紀(おおぬま・なおき)2012「人工内耳によって「ろう文化」はなくなるか?――ろう者の言語権・文化権と「音を聞く権利」を両立させる」、中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)、福島智(ふくしま・さとし)編『バリアフリー・コンフリクト――争われる身体と共生のゆくえ』東京大学出版部、51-71
    2014年2月5日(水)13時-16時、学而館201号
  • 第6回:見学
    2014年3月7日(金)-2014年3月8日(土)、聞こえない・聞こえにくい老人のための「特別養護老人ホーム 淡路ふくろうの郷」に見学、兵庫県洲本市中川原町中川原28番地1

成果及び今後の課題

 今年度は、博士論文構想発表会の検討会、ろう大会に参加、聴覚障害者の施設への見学、講演会の開催、読書会などさまざまな活動を行った。そのなか、メンバー3名が博士論文構想発表を済ませた。今後は、研究発表や文献講読に集中し、博士論文執筆や学位請求論文の提出に力を注ぎたい。

構成メンバー

  • イム・ドクヨン
  • 権藤真由美
  • 田中多賀子
  • 番匠健一
  • 野島晃子
  • クァク・ジョンナン
映画を通じて問いなおす「記憶」の形成

院生代表者

  • 梁 説

教員責任者

  • 渡辺 公三

企画目的・実施計画

企画目的

 本企画の目的は、人々の<記憶>を映画(映像)として表出する作品を鑑賞することで、記憶の歴史の描かれ方、記憶の継承のされ方、記憶の変転の有り様を、文学、社会学、人類学といった領域横断的な知見から考察することを目的としている。
 映像作品の製作者は、人々の生活の中の政治・文化・宗教・差別といった数多くの要素が混然としている現実の諸相をありのまま映し出す作品を通して、人文科学がテーマとする<記憶>や<語り>といった概念の基底となる構造を表出しており、見る側の〈記憶〉についての思考を喚起させる。<記憶>という共時・通時を内在する概念について、映画という現代の事象表現から読み解こうとする本プロジェクトの試みは、「表象」理論と実践に挑むものであり、このことは本プロジェクトの意義としてある。また、公開研究会を前提としている点においては、個人では観賞困難な映画作品を広く一般に鑑賞する機会を提供するという点においても意義を備えている。

実施計画

 2013年度は、パレスチナとイスラエルにおける人々の〈記憶〉に着目し、パレスチナ人とユダヤ人二人の監督による共同作品『ルート181』を取り上げ、上映会とワークショップ及び上映に向けて事前勉強会を行う。事前勉強会では、パレスチナ/イスラエル史、アラブ系ユダヤ人に関する先行研究、『ルート181・パレスチナ‐イスラエル 旅の断章』 (季刊前夜別冊)の読書会を行う。また、年間を通じた<記憶>をめぐる研究は、構成メンバーの個々の研究テーマと重なるものであり、研究の成果は個別の研究に反映されるものである。

活動内容

連続映画上映企画「「大陸三部作」から見る日本帝国」の実施

日本帝国において絶大な人気を誇った李香蘭(山口淑子)は、後の自伝『李香蘭 私の半生』(1987)において大陸三部作を「日本の大陸政策を宣伝するプロパガンダ」であると評している。もっとも有名な「支那の夜(戦後版「蘇州夜曲」)」に加え、「白蘭の夜」「熱砂の誓い」を通してみることで、日本帝国におけるジェンダー秩序やモダニズムなどこれまで植民地研究のなかで議論されてきた論点をふまえつつ、日中関係の緊張が高まる現在の東アジアの磁場にひきつけつつ、それぞれの作品を議論する場として上映会を企画した。学内者のみならず、学外から李香蘭研究者も参加するなど、映画を通して見えてくる日本の帝国主義統治について活発な議論がなされた。

◇12月12日(木)16:30~
「白蘭の歌」上映会とディスカッション
◇12月13日(金)16:30~
「支那の夜 蘇州夜曲」上映会とディスカッション
◇12月14日(土)15:00~ 
15:30まで満州三部作制作の背景と日本の満州統治についてのレクチャー(番匠健一)
「熱砂の誓ひ」上映会とディスカッション

映画「ルート181」上映会&講演会と前夜祭企画「豊穣な記憶」上映会の実施

本企画は、映画(映像)を通じて、「記憶」という事象を再確認し、問い直すことを試みようとした企画である。院生自らが個々の研究課題に接近させながら問い直しをすることによって、記憶の形成、記憶の継承のされ方、記憶の変転の有り様を、文学、社会学、人類学といった領域横断的な知見から考察することを目指したPJであり、鑑賞作品として1947年11月29日、国連によるパレスチナ分割決議181で採択された国境線が、半世紀以上経った現在、どのような状況になっているかを人々の日常の語りを通して描いた「ルート181」を選んだ。
また、映画上映会を開催するにあたり、田浪亜央江氏を講師として招聘した。田浪氏はインパクションの編集委員を長く務め、「ミーダーン〈パレスチナ・対話のための広場〉」という団体において中心的に活動を展開する。パレスチナ、イスラエル両方に精通し、かつナショナリズムや植民地主義の視点からパレスチナ/イスラエルの状況を、日本とつなげて捉える視点の持ち主であり、本企画にとって有意義なレクチャーがもたらされ、ディスカッションならびに交流会の場で、初めて知ったパレスチナ―イスラエルの現実について、活発な議論が展開された。

◇2月7日(金)〈前夜祭〉 17:30~
『豊穣な記憶』上映会
◇2月8日(土) 11:00~18:00
『ルート181』上映会、田浪亜央江氏による講演と質疑応答
18:30~ 参加者による懇親会

連続上映企画「日本帝国と映画」の実施

12月に開催の大陸三部作で、日本帝国の満州国家建設に関するディスカッションが深まり、継続した研究会の要望があり本企画開催となった。今回は倉本知明氏(台湾文藻大学非常勤講師)、呂艶宏氏(龍谷大学社会学研究課博士課程)を招いて、上映会と映画に関連する研究発表を行った。

◇2014年2月10日 15:00~19:00
第1回 『暁の脱走』上映会と研究発表「田村泰次郎「春婦伝」」 
研究発表:「何が語られ、何が隠されたのか―「春婦伝」から「暁の脱走」へ―」
倉本知明(台湾文藻大学非常勤講師)
◇第2回 2014年2月18日 15:00~19:00
『サヨンの鐘』と研究発表「李香蘭の身体」
※発表を依頼していた呂艶宏氏が体調不良のため欠席。上映会後、参加者とのディスカッションを行った。

成果及び今後の課題

 「大陸三部作」から見る日本帝国」企画、「日本帝国と映画」企画では、当時の映画政策、時代背景、満州国における日本帝国主義というものに着目し、映画を通した歴史検証を行うことができた。また、当企画は立命館大学生存学研究センター若手研究者研究力強化型「植民地主義研究会」との共催であり、相互の研究連携を構築した。
 「ルート181」上映会では、インタビューという手法を通じて、人間の「記憶」構築のあり様を多角的に見てとることができた。また、講演会では「記憶」というものがいかに言語(土地の呼び名など)と結びついているのか、思索を深めることができた。生存学研究センターとの共催企画として、「“生きて存るを学ぶ”――この行為(試み)の中で、「記憶」はいかに位置づけられるのか」という問いに対しては、今後も継続的探究を行う。
普段の生活者の姿に触れることが少ないパレスチナ-イスラエルの人々の日常に触れる機会という意味でも、一般に上映を公開した意味は大きい。今後の課題としては、映画という表象をいかに個々の研究課題に接近させていくか、有効な方法をプロジェクト研究会を通じて見いだしていきたい。

構成メンバー

  • 梁説 先端総合学術研究科 共生領域 2010年度入学
  • 児嶋きよみ 先端総合学術研究科 共生領域 2011年度入学 
  • 大谷通高 先端総合学術研究科 公共領域 2005年度入学
  • 中井和夫 先端総合学術研究科 共生領域 2011年度入学
  • 濱本真男 先端総合学術研究科 生命領域 2009年度入学
地域社会学研究会

院生代表者

  • 安田 智博

教員責任者

  • 立岩 真也

企画目的・実施計画

 地縁組織と「まちの居場所」の共存の可能性を検証しつつ、過去の衝突の歴史を追う。その中から今後の地縁組織と他組織との共存方法を考察し、地域社会の今後を占う。

活動内容

・地域社会学に関するメンバーの発表(全5回)
・平本毅先生等の研究者を招いた(全2回)

成果及び今後の課題

成果:
小辻寿規,2013,「喫茶店がまちの居場所になるための要件−YAOMON(京都市)の事例より−」,『地域活性学会第5回研究大会(2013年度・高崎)論文集』.
小辻寿規,「まちの居場所におけるソーシャル・キャピタル生成構造の検討 ――京都市の事例から」,日本社会学理論学会 第8回大会(於成城大学).
小辻寿規,2013,「まちの居場所終了要因の研究」,日本社会学会第86回大会(於慶應義塾大学).
諸岡聖,2014,『地域活動の継続要因−若年層と中高年層のケーススタディーによる考察−』,修士学位請求論文.

今後の課題:
地縁組織と他組織との共存には、共通の目的を持つ必要性があることが明らかになった。しかしながら、このような事例はかなりまれである。そのため、この共存のメカニズムを今後は探ることとする。

構成メンバー

  • 安田智博
  • 小辻寿規
  • 諸岡聖
  • 中村亮太
  • 伊藤岳志
論理学研究会

院生代表者

  • 角田 あさな

教員責任者

  • 竹中 悠美

企画目的・実施計画

 本プロジェクト企画の趣旨は、研究に必要な基礎知識としての論理学を学ぼうとするものである。本研究会は2011年4月から継続して行っているものである。前年度に引き続き、本学文学部の伊勢俊彦先生を中心として、論理学の基礎文献の講読を行うことを目的とする。参加者の哲学的関心や知識欲に沿いつつ、異なるテーマの者でも可能な限り読みやすいテキストを選択して、論理学とはどのようなものか、その基本構造を各人が身につけていくことを目指す。
本プロジェクトの意義は、各々の研究の手助けとするために、論理学の基礎的な知識を得ることのできる場をつくることにある。
 研究会は月に2回を目処に、継続的に実施し、参加者が文献の要約などを適宜発表し、コメント、および補足を、伊勢先生あるいは、他の参加者から受けるというセミナー形式にて行う。テキストは青山拓央『分析哲学講義』ちくま新書(2012)を使用し、毎回1章を読み進めることとする。

活動内容

  • 第1回研究会
    日時:2013年9月9日(月)16:00-
    内容:青山拓央『分析哲学入門』
    「講義7 可能世界と形而上学」
    場所:創思館412
    報告担当者:角田 あさな
  • 第2回研究会
    日時:2014年2月12日(水)18:00-
    内容:青山拓央『分析哲学入門』
    「講義6 二つの自然と、意味の貨幣」
    場所:創思館312
    報告担当者:山田 由紀

成果及び今後の課題

 今年度はテキスト選択の効果もあり、前年度に比べると、参加者の積極的な議論が行われたといえるだろう。ただ今年度は残念ながら、実施計画では月2回を目処に継続的に研究会を行う予定であったものの、参加者の都合を合わせることが難しく、2回のみの開催となった。今後は、少人数の研究会であることを活かして、参加者の関心により近いテキストを選択し、個々人がより積極的に研究会に参加できるよう考えつつ、継続的に研究会を行っていくことが重要であると考えている。

構成メンバー

  • 角田あさな 表象領域・2009年度入学
  • 小西真理子 生命領域・2011年度入学(3年次編入)
  • 山田由紀 公共領域・2012年度入学
  • 山口隆太郎 表象領域・2013年度入学(3年次編入)
「震災をめぐる障害者・病者の生活問題」に関するプロジェクト

院生代表者

  • 有松 玲

教員責任者

  • 立岩 真也

企画目的・実施計画

 本研究会は、2011年度から「障害者」「病者」の視点から見た震災の支援体制の問題点を中心に調べ、また、被災した福島県の在宅難病者を京都に招き、震災後、長く続いた停電に対してどのような対策が必要なのかを語ってもらうシンポジウムを開いた。2012年度はさらに各々のメンバー関心を置くテーマを現地に赴き調査し、その成果を公表している。2013年度はそれらの調査・報告をもとにさらに研究をメンバー全体で共有し、個々のメンバーの関心を深化させ、そしてこれまでの調査・研究をまとめることを目的とする。
 また、震災により発生した津波による障害者の死亡率が健常者の2倍であったことを受け、その時、個々の障害者に何が起こったのか十分に調査せず、対策も十全に行わないままである。そのような中、風化という言葉が聞こえるようになってきた今、その風化を防ごうと各地で取り組みが行われている。災害弱者を研究の対象とする研究会として、そして個々のメンバーが一研究者として、何ができるのか、見つめ続け問い直すこともこの研究会の目的である。

活動内容

 研究会の活動として10月23日に、東北関東大震災障害者救援本部が制作した「逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者」DVDの上映会を行った。上映会を終えた後セミナーを開き、参加していただいた方々と理解を深めることを行った。質疑応答でも介助者の確保に対する不安や多くの傷病者が発生した際に優先度を選別するトリアージが合法とされた場合の優先順位の在り方など、活発な議論が行われた。
 また、研究会のメンバーである佐藤浩子氏が郡山に調査に行った。詳細は、佐藤氏が個別に報告書を出しているが、この調査自体が風化を防ぐことに役立つと考えている。

成果及び今後の課題

 しかし、反省点もある。研究会の開催等を呼びかける実務担当者である筆者の体調が安定せず、なかなか研究会の開催を呼び掛けられなかった。個人的なことではあるが、その結果として研究会が開催できなかったことは残念でならない。
 東日本大震災の記憶の風化という言葉が、報道等で言われている昨今、この研究会を細々とでも続けていくことは、まだ集められていない震災で犠牲になった障害者・病者の詳細な記録をありのまま残し、解析し、どうして犠牲が多くなってしまったのか、解析するという作業と同時に風化にいかに立ち向かうのか、ということについても非常に意味がある。そうしたことに関心がある人はもちろんのこと、関心が薄い人たちも集まり、考え続けることが、風化を防ぐために重要ではないだろうか。

構成メンバー

  • 有松 玲
  • イム・ドンヨク
  • 桐原 尚之
  • クァク・ジョンナン
  • 権藤 眞由美
  • 酒井 美和
  • 佐藤 浩子
出生をめぐる倫理研究会

代表者

  • 松原 洋子

事務担当

  • 小門 穂、吉田 一史美

企画目的・実施計画

 本研究会は2008年の設立以来、「出生」をキーワードに妊娠・不妊・中絶・出産・養育など生殖に関わる様々問題を扱ってきた。今年度の研究課題は生殖と再生医療に関する技術と倫理であり、「生殖」と「生存」にかかわる医療・技術についてその接点と可能性を理解し、生殖技術が当該男女・親子・家族とどまらず広く社会に関わるものであることとその倫理的課題を検討することを目的とする。生殖医療や新しい技術をめぐって生ずる倫理的問題に研究メンバーが各専門領域からのアプローチを試み、学際的な議論の構築を目指すことに本研究会の意義がある。
 生殖技術と再生医療に関する公開シンポジウムを開催し、ゲストに柘植あづみ氏(明治学院大学社会学部教授・医療人類学)と八代嘉美氏(京都大学iPS細胞研究所特定准教授・幹細胞生物学)を迎える。また、子産み・子育てのなかでの不妊治療の捉え直しをテーマに、本研究会メンバーの安田裕子を講師として公開研究会を開催する。そして、成果物として、講演シンポジウムの講演録を含む報告書を作成する。

活動内容

第1回:打ち合わせ

2013年7月1日(月)13:00-15:00、立命館大学衣笠キャンパス創思館415。

第2回:公開企画に向けて事前勉強会1

2013年8月1日(木)13:00-16:00、立命館大学衣笠キャンパス創思館415
テキスト…柘植あづみ『生殖技術――不妊治療と再生医療は社会に何をもたらすか』みすず書房、2012年。

第3回:公開企画に向けて事前勉強会2

2013年8月17日(土)13:00-16:00、立命館大学衣笠キャンパス・創思館415。
テキスト…八代嘉美『増補 iPS――世紀の発見が医療を変える』平凡社、2011年。

第4回:公開シンポジウム

「iPS・ES細胞と生殖技術――その学問的成果・技術的有用性・倫理的問題」
2013年12月8日(日)13:30-17:00、立命館大学衣笠キャンパス末川記念会館大講義室。
講師…柘植あづみ氏(明治学院大学)、八代嘉美氏(京都大学iPS細胞研究所)。

第5回:公開企画に向けて事前勉強会3

2014年2月27日(木)13:00-15:00、立命館大学衣笠キャンパス創思館415

第6回:公開研究会

「子どもをもつことをめぐる女性の選択と経験――語りからのアプローチ」
2014年3月26日(水)14:00-16:00、立命館大学衣笠キャンパス創思館401/402。
講師…安田裕子(立命館大学衣笠総合研究機構)。

成果及び今後の課題

 活動の成果として、12月開催の公開シンポジウムの講演録と本研究会メンバーの論文等を掲載した次の報告書を刊行した。小門穂・吉田一史美・松原洋子編『生殖をめぐる技術と倫理――日本・ヨーロッパの視座から(生存学研究センター報告22)』立命館大学生存学研究センター、生活書院、2014年。
 今後の課題は、これまでの活動の継続に加え、外国語の文献講読、メンバーによる調査活動および報告をより積極的に行うことである。

構成メンバー

  • 松原洋子(先端総合学術研究科教授)
  • 小門穂(生存学研究センター専門研究員)
  • 安田裕子(衣笠総合研究機構専門研究員)
  • 吉田一史美(先端総合学術研究科生命領域6回生)
  • 西沢いづみ(先端総合学術研究科生命領域6回生)
  • 由井英樹(先端総合学術研究科生命領域6回生)
  • 貞岡美伸(先端総合学術研究科生命領域6回生)
  • 坂井めぐみ(先端総合学術研究科生命領域6回生)
ヨーロッパ文化・芸術・思想研究会

院生代表者

  • 川﨑 寧生

教員責任者

  • 竹中 悠美

企画目的・実施計画

 本研究会は、2009年度から行ってきた「『ドイツ文化』研究会」、「ヨーロッパ文化研究会」を継承し発展させるものである。これまでの研究会では、おもに芸術を対象として、西欧思想の根本にあるものを見極め、日本的なものとの相違を理解しようと努めてきた。昨年度は、ハイデガー『芸術作品の根源』を用い、ハイデガーの術語に秘められた意図を理解し、西欧の伝統における芸術の意味を理解することを目指した。今年度は昨年度の目的をひきつぐとともに各自の研究を深めるため、哲学的解釈学を展開させたハンス=ゲオルク・ガダマーの『真理と方法』、そのなかでも、芸術論と言語論に注目した。芸術や言語の領域を横断する現代の解釈学について考察するとともに、研究会員個々が各自の研究(学会発表・論文執筆)において解釈学の視点をどう活かすことができるか検討することを目的とした。
 各研究会では、Hans-Georg Gadamer; Wahrheit und Methode: Grundzüge einer philosophischen Hermeneutik, J.C.B. Mohr, 1960.(『真理と方法Ⅰ』轡田収他訳、法政大学出版局、1986)を輪読した。必要に応じて、原著や英語文献にも目を通すとともに、丸山高司『ガダマー』(講談社、1997)、渡邊二郎『構造と解釈』(ちくま学芸文庫、1994)などの文献も参照した。輪読を進めつつ各分野に当てはめ具体的に考えることで、参加者の理解度を高めるとともに積極的に発言することに努めた。

活動内容

  • 第1回研究会
    日時:2013年8月11日(日)14時00分~18時00分
    場所:末川記念会館 2階 第2会議室
    内容: 初回のため研究会メンバーは事前学習としての「序論」までを各自読み、研究会へと臨んだ。研究会では講師より昨年度扱ったハイデガーとガダマーの連関などについて説明していただきながら、一文一文精読していった。各自が抱いた疑問について講師の示唆のもと参加者が意見を出しあい、議論を深めた。
  • 第2回研究会
    日時:2014年1月12日(日)14時00分~18時00分
    場所:朱雀キャンパス 210号教室
    内容: 第2回目から本研究会のメンバーに加え、他大学の学生も参加した。参加者の提案により、「第Ⅰ章 美学的次元の乗り越え 第1節 精神科学にとっての人文主義的伝統の意味」を中心に読み進めた。特に「教養」と「共通感覚」のところでは、音楽オーケストラや絵画鑑賞における「教養」と「共通感覚」とは何かについて、それぞれの意見を出し合い、活発な議論をすることができた。 
  • 第3回研究会
    日時:2014年1月12日(日)14時00分~18時00分
    場所:朱雀キャンパス 210号教室
    内容: 前回に続き、「共通感覚」を読み進めた。複雑で内容を捉えることが難しい箇所では、講師による思想史的な知識について説明していただくことでより深く理解するとともに、内容を捉えたうえで、それを具体的な芸術の様相に当てはめるとどのようなことが言えるのかについて、美術や音楽の現象から議論した。文章を深く読解しつつ自発的に発言することによって、単に内容を論理的に把握するだけでなく、各自の研究に引き付けながら「共通感覚」および「判断力」概念を理解することができた。
  • 第4回研究会
    日時:2014年3月12日(水)14時00分~18時00分
    場所:朱雀キャンパス 312号教室
    内容: 前回までの総まとめも行ったうち、「判断力」および「趣味」を中心に輪読した。まず、「規定的な判断力」と「反省的な判断力」の違いを現代の出来事に当てはめながら理解・共有した。次に、カント以前に示されてきた「共通感覚」とカントが示した「共通感覚」の違いをガダマーはどのように捉え、カントを批判しているのかに注目し議論を進めた。また、「共通感覚」を養うためには現代において何が必要かを参加者が自発的に意見を述べ合うことができた。

成果及び今後の課題

 本研究会ではこれまでと同様に内容把握とともに、一つひとつの語句を洗い出し、曖昧な箇所を残さないように基本文献を読むことを重視した。より具体的に理解することをめざし、音楽・美術館・現代美術などの参加者の研究対象を取り上げたことで、参加者が活発に発言でき、各研究分野についての理解も深めることができた。
 当初は芸術論および言語論を進めていくことを予定していたが、結果としては芸術論にとどまり言語論にまで進められなかったことが反省点としてあげられる。参加者が自発的に発言することで、昨年度よりも活発な議論を行えたことは、本研究会の成果であると同時にこれまで続けて行ってきた研究会の成果であると考える。
 今後もこのような研究会を行い、近代哲学・文化形成について論じる場を作ることを考えている。また、ただ議論するのではなく、研究会での内容を踏まえた発表あるいは論文作成へ発展させていきたい。

構成メンバー

  • 川﨑 寧生(表象領域・2008年度入学・代表者)
  • 茂山 忠亮(表象領域・2003年度入学)
  • 鹿島 萌子(表象領域・2008年度入学)
  • 角田 あさな(表象領域・2009年度入学)
  • 山口 隆太郎(表象領域・2013年度入学)
精神分析研究会

院生代表者

  • 北村 隆人

教員責任者

  • 千葉 雅也

企画目的・実施計画

 本研究会は、精神分析の創始者であるフロイトの理論解釈と、その解釈を通じてメンバーの研究をさらに深めることを目的としている。研究会は、精神分析という学問において共通関心をもっているが、領域、専門分野および研究テーマは多彩なメンバーで構成されている。研究会メンバーの多彩な視点を通じて、様々な視点(精神分析の専門家、心理学、社会学、文学、文化人類学など)から精神分析における興味関心・問題意識を深めたり共有したりすることができる。
 2013年度は、月1回のペースで研究会を開催し、フロイトの翻訳版テクストの講読とメンバーによる研究発表を行う。まず、フロイトの精神分析理論の全体像を把握するための文献を1回で講読し、その後、フロイトの重要文献を年代順に読み進める。毎回の研究会では一つのテーマを設定し、フロイトの主要テクストを講読する回と、そのテクストに関して研究報告する回とを交互に行う。研究報告の回では、前回の研究会の論点や、扱ったテクストと各自の研究テーマとの関係についてなど、各メンバー独自の視点による発表を行い、研究会メンバーで議論・意見交換を行う(具体例としては、1回の研究会で『ヒステリー分析』を読み、次回の研究会で、ヒステリーに関する文献・論文を紹介したり、それを用いて研究報告を行ったりする)。

活動内容

  • 第1回研究会
    5月28日(火)14時40分~ @生命部屋
    『現代の精神分析――フロイトからフロイト以後へ』
    I フロイト理論の全体像
    1章・2章aまで:近藤宏
    2章b~c:中村亮太
    2章d~e:馬場久理子
    2章f:小西真理子
    II フロイトからフロイト以後へ
    1章~3章:小西真理子
    4章~6章:北村隆人
  • 第2回研究会
    7月2日(火)13時~ @生命部屋
    『フロイト全集2(ヒステリー研究)』
    観察1 アンナ・O嬢:田中壮泰
    病歴A エミー・フォン・N婦人:中村亮太
    病歴B ミス・ルーシー・R:近藤宏
    病歴C カタリーナ:北村隆人
    病歴D エリザベート・フォン・R嬢:馬場久理子
    ヒステリーの精神療法のために(フロイト):小西真理子
  • 第3回研究会
    8月6日(火)13:00~16:30 @生命部屋
    発表1:「アンナ・Oと共依存」(発表者:小西真理子・指定質問者:北村隆人)
    発表2:ドンブロフスキに関する発表(発表者:馬場久理子・指定質問者:大谷通高)
  • 第4回研究会
    9月10日(火)13時~ @生命部屋
    『フロイト全集 4巻(夢解釈Ⅰ)』
    第2章:北村隆人
    第3章:田中壮泰
    第4章:近藤宏
    第5章(A:大谷通高、B:小西真理子、CとD:馬場久理子)
  • 第5回研究会
    10月29日(火)13時~ @生命部屋
    『フロイト全集 5巻(夢解釈Ⅱ)』
    第6章(ABC:北村隆人・DEF:田中壮泰・GHI:近藤宏)
    第7章(ABC:中村亮太・DEF:馬場久理子)
  • 第6回研究会
    11月26日(火)13:00〜 @生命部屋
    研究発表(報告者:北村隆人 、馬場久理子)
  • 第7回研究会
    12月24日(火)13:00〜 @生命部屋
    研究発表(報告者:河原梓水、小西真理子)
  • 第8回研究会
    2月18日(火)13:00〜 @生命部屋
    「性欲論三篇」『フロイト全集6』
    第一篇:河原梓水
    第二篇:北村隆人
    第三篇:馬場久理子
    まとめ:小西真理子

成果及び今後の課題

 今年度は、月1回のペースで研究会を開催し、フロイトの著作(初期)の読解および精神分析に関する個人発表を中心として活動してきた。1年間の活動を通じてメンバーが、精神分析理論における基礎知識を習得することができた。今年度は、フロイトの著作を年代順に取り扱ってきたが、来年度は、メンバーの学術的関心に焦点を当てながら読解する著作を選抜し、より各メンバーの個人研究に還元できる活動を行っていきたい。

構成メンバー

  • 北村隆人 公共領域 4回・2012年度入学
  • 小西真理子 生命領域 5回・2011年度入学
  • 中村亮太 公共領域 1回・2013年度入学
  • 馬場久理子 生命領域 4回・2010年度入学
  • 由井秀樹 生命領域 5回・2011年度入学
言語教育における「ことば」と「アイデンティティ」を考える

院生代表者

  • 野島 晃子

教員責任者

  • 西 成彦

企画目的・実施計画

企画目的

 言語意識と個人のアイデンティティ形成は密接な関係をもつ。第一言語あるいは母語は自己のアイデンティティに大きな影響を及ぼすが、さらに別の言語(第二言語)が加わると複雑化する。意識しているか、していないかは別にしても、バイリンガルであることは単なる言語だけの問題ではない。また、言語選択には国の政治的要因も影響を及ぼすことが多い。
 本研究会は、言語教育を「目標言語を教育する」という側面からだけではなく、「アイデンティティを形成する」という側面をはじめとする多角的な観点から捉え、参加者各々の専門領域に応用する技術と知識の習得・探求を目的とするものである。

実施計画

1. 2013年6月から月1回ペースで研究会を開催する。
2. 参加メンバーの研究課題・研究関心に沿った文献講読や研究発表を行い、ディスカッションをとおして参加者の見識を深め、それぞれの研究へとつなげる。
3. 関連分野の講師を招聘し、特別研究会を実施する。

活動内容

  • 第1回研究会:2013年5月21日
     今回新たに立ち上げた研究会において、何をどのように進めて行くかに関し、各々の研究テーマ、関心のある事象、メンバーにすすめたい図書について意見交換を行った。
     それぞれの研究の進捗についても、お互いに評価し合い、積極的にコメントをすることができ、研究会としての新規テーマ設定だけに留まらず、各々が自分の研究について振り返る場となった。

  • 第2回研究会:2013年6月18日
     研究会にて輪読を進めるにあたり、その図書の選定を行った。各自が関心のある図書やこれまでの論文で使用した文献を持ち寄り、研究会のテーマに会うものを話し合った。単に図書の話だけではなく、著者の研究内容や研究機関等で行っている授業内容にまで話が発展し、活発な意見交換を行うことができた。

成果及び今後の課題

 メンバー各々の研究に関し理解を深め、批評し合う機会の場となったことは、直接的な研究会の成果につながらなくとも利点であったと考えることができる。
 代表者をはじめメンバーの予定がうまく合わず、研究会を定期的に開催することができなかった点、一年間を通じて開催しなかった点は大いに反省しなければならない。今後は、メンバーの大半が揃わない日程であっても定期的に研究会を開催し、また、メンバー以外の院生への周知、呼びかけも行い、多種多様な院生の間での意見交換の機会を持ちたい。今回実現できなかった講師招聘については、今後も引き続き候補者への打診を行い、実現に向けて進めていく。

構成メンバー

  • 野島 晃子 共生領域
  • 中井 和夫 共生領域
  • 児嶋 きよみ 共生領域
  • 北見 由美 共生領域
  • クァク・ジョンナン 公共領域
  • 馬場 裕子 共生領域