美学・芸術学基礎文献講読会(2022年度)

院生代表者

  • 中川 陽平

教員責任者

  • 竹中 悠美

概要

 本研究会の目的は、美学・芸術学に関する文献の講読会と講師によるフィードバックと講義を通して、これまでギリシア哲学から「美学」の誕生を経て、近代までたどってきた美学・芸術学史の概観を把握し、基礎的・理論的な知識・研究力を養うことである。
 具体的な内容及び実施内容としては二つに分けられる。まずは、7月、8月に基礎的な知識を付けるために月に一回の講読会を開催し、それぞれの担当を決めレジュメを用意したうえで発表をする。文献としては田之頭一知(2017)『美と藝術の扉』萌書房、小田部胤久(2020)『美学』東京大学出版会を予定している。その他の文献については第一回講読会にて研究メンバー自身の研究内容と照らし合わせたうえで決定していく。
 講読会を通して美学・芸術学史の概観を把握したのち、2月までの毎月、美学を専門とする講師(京都大学の杉山卓史准教授、大阪芸術大学の田之頭一知教授等)を学外から招聘し、より専門的な講義を行っていただく。
 本講読会は美学・芸術学、またはその周縁で研究する学生が、美学会をはじめ各学会への参加、発表の際に必要となる基礎的な知識や研究力を養うという点で意義がある。またレジュメを作成し発表するということは今後の研究発表において基礎的な技術となるため、実践を通して研究者としてのスキルアップも試みる。

活動内容

2022年5月~7月 文献講読を中心とした月例研究会の実施。

第一回講義
日時: 2022年 10月27日(木) 16:00~18:30
場所: Zoomオンライン会議
内容: 本講演会では美学・芸術学に関する知識を深めることを目的とし、京都大学の杉山卓史准教授を招聘し、ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーの思想を詳細にご紹介いただいた。16時からオンラインにてプログラムを開始し、約1時間半の講演をしていただいた後に学生からの質問とそれを起点としたディスカッションを1時間ほど行った。

第二回講義
日時: 2022年 12月5日(月) 17:00~19:30
場所: Zoomオンライン会議
内容: 大阪芸術大学教授の田之頭一知先生に、ご著書の『美と藝術の扉―古代ギリシア、カント、そしてベルクソン―』(きざす萌書房、2017年)におけるベルクソンの項を中心に解説いただき、そのうえで当日参加した院生メンバー3名とのディスカッションを行った。ベルクソンの中心概念である「持続」が主な議題となったが、ベルクソンの理論によって芸術を理解することよりもむしろ、諸芸術の側からベルクソンの「持続」を再度問い直すような刺激的な議論を紹介いただいた。

第三回講義
日時: 2022年 12月22日 (木) 13:00~15:00
場所: Zoomオンライン会議
内容: 本講読会では、前回の講義に引き続き京都大学の杉山卓史准教授を招聘し、杉山先生の博士論文を講読文献として質問やディスカッションを行った。カントやヘルダーの思想に関する知見を深めるとともに、博士論文の構想を練り上げていく過程など、これから博士論文を執筆する際に参考になるご意見をご教授していただいた。13時から開始し、15時まで論文の内容に関する質問や、博士論文を執筆するということに関しての質問をし、議論を発展させた。

第四回講義
日時: 2022年12月26日(月) 
場所: 究論館プレゼンテーションルームA
内容: 大阪芸術大学教授の田之頭一知先生を再度お招きし、前回のベルクソンの議論を念頭に置きつつ当日参加した院生メンバー3名と、各々の研究課題に応じたベルクソンの理論の関係性についてディスカッションを行った。そこでは引き続き、諸芸術の側からベルクソンを再度問い直すといったように、ベルクソンの理論をある意味で現代の芸術に合わせた形に応用するといった仕方を模索するものであった。加えて音楽美学上の重要な問題である「沈黙」という概念について取り扱い、導入とした。西洋思想史上のそれを踏まえつつ、ジゼル・ブルレの「沈黙」、ジョン・ケージの「沈黙」、武満徹の「沈黙」と思想家・作家たちの「沈黙」概念について議論した。

成果及び今後の課題

 本研究会では、カント、ヘルダー、ベルクソンの美学思想に関して理解を深めることができたと同時に、先生方との議論によって参加メンバー自身の研究に活かせるような知識を獲得することができた。
 翻って、当初予定をしていた例会での参加メンバーによる発表まで手が回らなかったため、今後の課題としたい。

構成メンバー

中川 陽平
藤本 流位
高畑 和輝
西本 春菜
鶴見 亮輔
勝又 栄政
北村 公人

映画・テレビドラマ映像分析研究会(2022年度)

院生代表者

  • 荒木 慎太郎

教員責任者

  • 竹中 悠美

概要

 本研究プロジェクトは、近年研究され始め、活発に研究されるようになったテレビドラマに焦点を当てる。
テレビドラマ制作の技術がどのように映画から受け継がれ、またテレビドラマが独自の価値を獲得し映画とは違うものとして成立していくのかを検討し、映画・テレビドラマを脚本や監督・演出といった制作の面から分析する能力を向上させることを目的とする。
 本研究会は映像作品を鑑賞しディスカッションを行うことが基本的な様式となるが、ゲスト講師を招聘し、専門的な分野からの意見とご教授をいただくことで、映像作品を理論・実践の面から検討する。ゲスト講師は映画美学と映画実践に精通する大阪大学名誉教授の上倉庸敬先生を予定し、制作分野など他のゲスト講師の方にも交渉中である。
 また、京都という都市は映画と縁深く、東映撮影所を始めとする撮影所と撮影地が多く存在する。近年は実写だけでなくアニメにおいても京都は多く描かれており、映像作品における京都の価値は大きい。映像作品の検討に加えて、撮影所や撮影地に行き、実際に目で見て観察することで、切り取られた映像の中の京都と実際を検討することも行いたい。
 本研究会の意義は、映画とテレビドラマを、脚本や監督の作風といった制作の面から検討することであり、実際に撮影所や撮影地に行ってシーンやカット、ショットを検討する試みは新たなディスカッションの糸口となるのではないか。

活動内容

第一回研究会
日時:2022年8月19日(金)16時~19時
場所:創志館312
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第一章の読書会を行った。継続して購読を行うために、整理を行いながら、第一章の精読を行った。
第二回研究会
日時:2022年9月16日(金)16時~19時
場所:創志館312
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第一章の読書会を行った。ボードウェルの指摘する、日本らしさ、革新性についての理解とディスカッションを行い、上倉先生にご教授をいただいた。カットの比較検討も行い、家屋の奥まで詳細に映されるショットや「触れる」という主題の重要性が浮かび上がった。
第三回研究会
日時:2022年10月28日(金)16時~19時
場所:創志館312
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第二章の読書会を行った。ボードウェルの指摘する、日本らしさについての検討を行った。小津安二郎は保守的な監督なのか、革新的な監督なのか、ボードウェルの小津論を読み進めながら、上倉先生にご教授をいただき、小津映画についての理解と、ショットについての理解を深めた。
第四回研究会
日時:2022年11月18日(金)16時~19時
場所:創志館408
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第三章の読書会に向け、小津安二郎監督『戸田家の兄妹』(1941)を視聴し、ディスカッションを行った。ボードウェルの指摘する日本らしさについての検討を行っていくために、上倉先生にご教授をいただき、小津映画とショットについての理解を深めた。
第五回研究会
日時:2022年12月16日(金)16時~19時
場所:創志館408
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第二・三章の読書会を行った。映画のスタイルと構造を中心に、映画を参照しながらディスカッションを行った。ボードウェルの指摘する規範や評価について、上倉先生にご教授をいただき、小津映画とショットについての理解を深めた。
第六回研究会
日時:2023年2月28日(金)11時~18時
場所:創志館408
内容:メンバーの関心のある作品や、研究対象となる映像作品を持ち寄り、鑑賞会とディスカッションを行った。映画『パルプ・フィクション』(1994) など、名作を改めて見ることで新たな気付きと議論が生まれた。また、テレビドラマ『スケバン刑事』(1985)を大画面で見ることで、テレビサイズというスクリーンに収めるための横幅の狭さを強く感じるとともに、そこから生じるセットの問題や、作られたショットの違和感についてもディスカッションを行った。

成果及び今後の課題

 本研究会を通じて、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』で論じられている映像論(小津論)について理解を深めることができ、カットやショットに込められた意味を見つけ、それらに対する理解を深めるための貴重な機会となった。読書と合わせて、映像作品の鑑賞を行うことで、映像の持つ「感じる」という感性と物語の関係性を改めて認識し、理解を深めることができた。
 映像理論の理解を深めることに重点を置いたため、計画していた撮影所に行き、実際にシーンやカットを検討することはできなかった。メンバーの意見を取り入れながら、映画・テレビドラマという垣根にとらわれず、理解を深めることを目的とし、一定の成果を得られたが、メンバーそれぞれが、自身の研究分野と映像文化の関係性をより明確化し意識していくことで、研究会の質の向上が期待できると感じた。今後はメンバーの研究内容についても意見交換を行い、理解を深めながら、映画・テレビドラマについての理解を深め、実践も行えるように運営を行っていきたい。

構成メンバー

荒木 慎太郎
濱中 健太
嶋津 麻穂
西川 秀伸
宮内 沙也佳
張 芸馨

SOGI研究会(2022年度)

院生代表者

  • OUYANG Shanshan

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

【目的】SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)とは、性的指向とジェンダー・アイデンティティのことを意味する。本研究会はSOGIの視点で幅広い課題を検討することを目指している。2022年度研究会の目的は、クィア・アクティビティにおいて、SOGIはどのように表象されているのかという課題を中心に、クィア理論、メディア分析、ディスアビリティ・スタディーズ、地域研究など多様な分野から考察することである。
【内容と方法】本研究会の内容および方法は3つの活動で構成される。
①読書会を開催し、クィア・アクティビティに関する文献・論文の輪読を行うことを活動の基本とする。その場、担当メンバーがレジュメを作って発表する。
②クィア映画祭、展覧会など関連イベントに参加し、その場で得た知識と自分なりの感想などを研究会で検討する。
③読書会で検討したテキストの著者、海外の研究者を招きして公開研究会を行う。
【意義】本プロジェクトは、多様な専門領域とSOGIの接点を探ることによって、コミュニティと社会運動研究に関心を持つメンバーは各自の研究を進捗させると考える。また、プロジェクトを通じて、海外の研究者との交流に促進する。

活動内容

(1)文献の講読と映画鑑賞

1 日時:2022年8月31日
内容:文献講読 千葉雅也,2018,「あなたにギャル男を愛していないとは言わせない──倒錯の強い定義」『意味がない無意味』河出書房新社,94-228.

2 日時:2022年9月30日
内容:文献講読 White, Francis Ray. “No fat future? The uses of anti-social queer theory for fat activism,” Queer futures: Reconsidering ethics, activism, and the political (2013): 21-36.

3 日時:2022年9月24日〜25日
内容:関西クィア映画祭に参加し、パートナーシップやエイジングを反映する『夫=夫』、同性を好きになったろう者のストーリーである『ジンジャーミルク』、トランスジェンダー の議論を集めた『ノー・オーディナリーマン』など作品を鑑賞した。

4 日時:2023年2月10日
内容:文献講読 Stockinger Arnaud, 2020,「Can Film Be Gay? : Re-thinking “Gay” as a Film Genre in Japanese Context」『国際文化学』 33:114-134; 映画『エゴイスト』を鑑賞した。

5 日時:2023年2月11日
内容:文献講読 三須祐介, 2021, 「戦争と「同志」叙事:大島渚『戦場のメリークリスマス』から明毓屛『再見,東京』へ」『立命館言語文化研究』 33 (1):97-110; 映画『戦場の メリークリスマス』を鑑賞した。

(2)公開研究会の開催
2023年2月12日に、「母/子それぞれが互いに綴る背反と和解、10年の軌跡」と題して、公開研究会を開催した。イベントでは、研究会メンバーである勝又栄政さんによる講演を通し、著書『親子は生きづらい── “トランスジェンダー”をめぐる家族の物語』執筆の経緯をはじめ、本書の内容をご紹介いただきつつ、「トランスジェンダーの子と親」の現状について、お話いただいた。その後、参加者とともに議論を深めた。
文献閲読:勝又栄政,2022,『親子は生きづらい── “トランスジェンダー”をめぐる家族の物語』金剛出版.

活動内容

 今年度は、SOGIはどのように表象されているのかという課題を中心に、クィア理論、メディア分析に関連する文献を講読し、それに関連する映画も鑑賞した。クィア・アクティビティの多様さを学習することができた。また、公開研究会を通じてトランスジェンダーに関わる議論や当事者の経験への理解も深めることができた。今後、学際的、国際的な研究会活動をしていくことを望んでいる。

構成メンバー

OUYANG Shanshan
長島 史織
QU Honglin
TAN Lacheng
宮内 沙也佳
勝又 栄政

活動歴

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