メッセージ 松原洋子 教授・研究科長(2012~2014年度)

― 「アウェイ」を楽しみ「ホーム」を創る ―

松原洋子

 2003年、5年一貫制のプロジェクト型大学院として出発した先端総合学術研究科(先端研)は、2013年4月に開設11年目を迎えます。先端研は、学部から独立した大学院だけの教育組織です。定員は150名で、人文社会系としては規模の大きい大学院です。院生は、学部から直接大学院に進学した人のほか、社会人から院生に転身した人、仕事をしながら、あるいは子育てや介護をしながら研究を続ける人など様々です。
先端研では学問的な専門分野、つまりディシプリン内部の課題の解決に終始するのではなく、現代の世界における先端的問題を探り当て取り組むことを重視しています。この場合の「先端」とは必ずしも「最新」「最前線」を意味しません。歴史の襞に隠れた出来事の再評価が、既成概念を覆すこともあります。世界に向けた「問い」としての新しさと独創性。これが私たちのめざす「先端」です。
 このような問いは複合的でダイナミックです。この問いに分野別の縦割りの知ではなく、横断的かつ総合的な知で接近し、「博士(学術)」にふさわしい学位論文に結実させることが院生の目標となります。院生たちは、それぞれが自分の経験から、あるいは知識や思索を通して見いだした問いを携えてきます。時には野蛮といえるほど素朴な問いであっても、教員たちはその問いの先に博士論文にまで結実する芽があると信じて伴走します。入学時と研究テーマが全く変わることもあります。しかし、それは初発の問いを教員や学友と粘り強く深めた結果なのです。「正しい問いをいかに立てるか」にこそ、研究の成果が表れるとも言えます。
 それぞれの学問分野には、研究者たちが時間をかけて吟味してきた知と方法が蓄積されています。したがって、いずれかの学問分野をまずは「ホーム」にみたてて、研究者としての訓練を積んでいきます。しかし、複合的でダイナミックな問いを見いだして磨き、研究成果に結実させていく営みは、問題意識を特定の学問分野に閉じ込めていては成立しません。「ホーム」以外の専門分野、さらは学界の外に蓄積されている膨大な知と技法に向けて意識を開き、「アウェイ」でのプレイを楽しむことです。
 先端研には、異分野の知識を交換し、共有し、議論して切磋琢磨する他流試合の機会が授業以外にも豊富にあります。たとえば、博士論文・博士予備論文構想発表会学位審査公聴会、『CoreEthics』(先端研発行)の草稿検討会などです。こだわりのテーマをそれぞれ抱えつつ、「アウェイ」での交流を常態とするなかから、専門分野は違っても関心や目標を共有する人々とのプロジェクトが生まれ、それが新たな「ホーム」となります。「自身のテーマを自らの力で徹底的に思考する」(先端研アドミッションポリシー)には、学術分野における研究蓄積に謙虚に学びながら、プロジェクトという新しい知の連携をプロデュースし成果を生み出す力量が必要です。それを引き出し育てるのが先端研の「プロジェクト型教育」であると考えています。先端研の教員は全員大学院専任です。先端研ならではの研究を生み出すために、教員相互で研究プロジェクトを組み、緊密に連携しながら院生指導にあたっています。また先端研では、院生が主宰する「院生プロジェクト」への財政的援助も行なっています。さらに、研究指導助手英語論文指導スタッフなど細やかな研究支援体制を用意しています。
 開設以来、私たちは院生とともに試行錯誤を重ね、多くの修了生と優れた研究成果を生み出してきました。2012年に続き、2013年にもパワフルな教員スタッフを迎えています。先端研の新たな挑戦が始まります。

研究科長 松原 洋子 『履修要項』より

国際コンファレンス「忍び寄るカタストロフィ-その多様性と遍在性-」

企画概要

通常、カタストロフィは突然、特定の場所と時間に降りかかってくるものだと受け止められている。しかしカタストロフィには、別の形態、より正確には別の側面がある。それは、実際にカタストロフィが起きてから見えてくる問題である。すなわちそれは、普段は可視化されておらず、問題の深刻さに事後的に気づく問題であったり、徐々にカタストロフィが迫ってくるがゆえに、逆に事前に対策が打たれることなく、その結果事態がより深刻化する問題であったりする。地球温暖化や地球規模で広がる格差、政治の腐敗、パンデミック、精神疾患、人口のアンバランス等が、カタストロフィのそうした別の形態ないし側面である。今年度のカンファレンスでは、そうした多様かつ遍在する慢性化したカタストロフィが正義の問題とどのように関わるのかに迫る。


国際コンファレンス「忍び寄るカタストロフィ-その多様性と遍在性-」

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開催日時・場所

開催日時:2015年3月23日(月)24日(火)・25日(水)
会場:立命館大学衣笠キャンパス創思館カンファレンスルーム
※入場無料・事前申込不要

Program

March 23 (Doors open at 9:15)

09:45 – K. Watanabe 渡辺公三(立命館大学副総長) Opening Address
10:00 – Eric M. Uslaner (University of Maryland) “Disaster and Trust”
11:15 – W. Sano 佐野亘(京都大学) “Permissible Injustice? The Problem of Corruption in Non-Ideal Theory”
13:30 – Simon. Caney (Oxford University) “Global Environmental Degradation as a Slow Moving Problem: Ethical Responsibilities and Institutional Responses”
14:30 – K. Shimizu 清水和巳(早稲田大学) “How Should We Evaluate Catastrophic Risk”
15:45 – A. Inoue 井上彰(立命館大学) “Prioritarianism in a Catastrophic world”

<Student Session>
16:45 – G. Niu (愛知大学) “A Theoretical Exploration of Corruption in China”
17:10 – 奥田恒 (京都大学大学院)「懐疑論者はいかにカタストロフィに取り組みうるか」
17:35 – 戸谷洋志(大阪大学大学院)「福島第一原発事故をめぐる「カタストロフィ」解釈の諸相」

March 24 (Doors open at 9:30)

※登壇者、スケジュールに変更がありました(3/11)
10:00 – Eric L. HSU (University of South Australia)“Theorizing Slow Moving Disasters in a High-Speed Society”
11:15 – R. Gotoh 後藤玲子(一橋大学) “Gratitude and A Moment of Cooperation”
13:30 – Pierre-Henri Castel (CNRS, Paris) “The Evil Which Comes. Or, What the Prospect of a Remote End of Mankind May Already Change in Our Everyday Ethical Behaviour”
14:30 – M. Osawa 大澤真幸(京都造形芸術大学) “Freedom in the Era of Impossibility”
15:45 – Paul Dumouchel (立命館大学) “Catastrophes and Time”

<Student Session>
16:45 – N. Tajan (Kyoto University) “Mental Health Issues as Slow Moving Catastrophes”
17:10 – 長谷川唯・桐原尚之(立命館大学大学院)「未来予測を根拠とした介入の失考――本人と他人の葛藤場面から」
17:35 – 越智朝芳(立命館大学大学院)「J・G・バラード『クラッシュ』におけるカタストロフィとポルノグラフィ」

March 25 (Doors open at 9:30)

10:00 – Frédéric Keck, (CNRS, Paris) “Biosecurity Practices in Labs and Museums: Sentinels, Simulation, Stockpiling”
11:15 – M. Matsumoto 松元雅和(関西大学) “War as Catastrophe: Considering the Proportionality Principle in Just War Theory”
12:15 – P. Dumouchel (立命館大学) Closing Address and General Discussion

ピーター・ホルワード (Peter Hallward)氏講演会

下記の日程でピーター・ホルワード (Peter Hallward) 講演会を開催いたします。
予約不要、入場無料となっておりますので、ぜひご参加ください。


ピーター・ホルワード (Peter Hallward) 講演会

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講演タイトル

「ジル・ドゥルーズと政治(”Politics after Deleuze: Immanence and Transcendence Revisited”)」

Guest Speaker:ピーター・ホルワード(Peter Hallward)
コメント:千葉雅也(立命館大学)山森裕毅(大阪大学)

開催日時・場所

日時:2015年3月19日(木) 14:00〜17:00
場所:立命館大学 衣笠キャンパス 創思館401・402
使用言語:英語(日本語翻訳配布、質疑応答通訳あり)

主催:科研費基盤(B)プロジェクト「モダニズムの越境性/地域性――近代の時空間の再検討」(研究代表者:中井亜佐子)
共催:立命館大学大学院先端総合学術研究科

2015年
『メディアデバイスから 開く/閉じる パートナーシップ――ソーシャルメディア・ハラスメント・大学』

企画概要

 近年、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)をはじめとするソーシャルメディアの普及により、学習・研究の環境はもちろんのこと、学生・研究者相互のコミュニケーションのあり方も大きく様変わりしつつある。そうした新たな情報通信技術(ICT)環境下で、学生同士の日常的コミュニケーション、あるいは教員と学生の関係に、これまでになかった ような問題も生じている。ICTに媒介されたハラスメント事件なども日々報道されており、われわれ大学関係者も無縁ではいられない。
 そこで本企画では、メディア論がご専門の飯田豊先生をお招きし、本学の学生を対象に実施したLINE利用実態の調査結果などを踏まえて、一連の問題とその向き合い方について共に考える場としたい。


『メディアデバイスから 開く/閉じる パートナーシップ――ソーシャルメディア・ハラスメント・大学』

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開催日時・場所

日時:2015年2月17日(火)16:00-18:00
場所:立命館大学衣笠キャンパス創思館4階401-402
アクセス: http://www.ritsumei.jp/accessmap/accessmap_kinugasa_j.html

【プログラム】 
16:00-16:10 趣旨説明 吉田寛
16:10-17:00 講演 飯田豊
17:00-17:10 休憩
17:10-18:00 全体ディスカッション

プログラム終了後に懇親会を予定

台湾研究会

院生代表者

  • 時 嘉賓

教員責任者

  • 井上 彰

企画目的・実施計画

 先生の方々は「台湾」のことをよくご存じですか?嘗て「フォルモサ(麗しの島)」と呼ばれるこの小さな島は400年に近い激動の歴史を持っています。特にグローバル化が激しく進む現在、台湾という政治実体を国際社会から孤立することはすでにできなくなったし、「台湾」を研究する際、常に国際的な視点を持たないと島内に変わり続ける現象を理解することは難しいと思います。だが、台湾研究という分野自体がとても若く、しかもほとんどは政治・経済・外交といった三つの方面に集中しており、それ以外の課題に関して研究活動を行なっている研究者たちはいつも孤独を感じています。もしお互いに話し合える場所があるとしたら、きっとより全面的に台湾を認識することが可能ではないでしょうか。さらに、大陸出身者である私にとって、直接に台湾人と交流する機会は非常に貴重で、両岸の関係を円滑に維持するために、うまくコミュニケーションをとるのが第一歩だと言われるように、この「台湾研究会」に含まれた意義が絶大だと言っても良いだろう。要するに、相手の声をきちんと聞き、それぞれの研究テーマの枠を超えて、中国大陸と台湾といった異なる立場から「心平気和(心を平らに、気を和らげる)」でフォルモサの美しさを語り、400年の歳月に潜む喜怒哀楽を味わうことは最大の目的です。

構成メンバー

  • 時 嘉賓(先端総合学術研究科公共領域2013年度入学)
  • 陳 昇延(国際関係研究科(前期) Global Cooperation Program)
  • 王 馨敏(国際関係研究科(前期) Global Cooperation Program)
  • 任 慕(国際関係研究科(後期) Global Cooperation Program)
コンテンツ文化研究会

院生代表者

  • 彭 莱

教員責任者

  • 吉田 寛

企画目的・実施計画

 本研究会の目的は、ゲーム、映画・映像、マンガ、アニメなどコンテンツ分野に関する歴史・変遷・現状を巡って、特にグローバルな視点から、既存のコンテンツや視覚文化に対する理解を深めながら、将来性を検討することである。
 本研究会においては、個々分野の分析だけではなく、多数のコンテンツを横断的に概括し、今後コンテンツや視覚文化における研究の方向と課題の提出を試みる。また、申請者共はこの研究会を媒介として、各分野に関心を持つメンバーの交流・支援のためのネットワークの基礎を構築する。

構成メンバー

  • モリ カイネイ(先端総合学術研究科共生領域2009年度入学)
  • 川崎 寧生(先端総合学術研究科表象領域2009年度入学)
  • ホウ ライ(代表者)(先端総合学術研究科表象領域2010年度入学)
  • リョウ ウキ(研究分担者)(先端総合学術研究科生命領域2012年度入学)
  • ラン ブンセイ(先端総合学術研究科生命領域2013年度入学)
メディアからの発信 2014年度
  • 千葉雅也准教授の著書『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社、2013年)が、『表象09――音と聴取のアルケオロジー』の書評に取り上げられました(評者:江川隆男〔立教大学教授](2015/03))
  • 西成彦教授の著書『バイリンガルな夢と憂鬱』(人文書院、2014年)の書評が、『毎日新聞』書評欄に掲載されました(評者:池澤夏樹〔作家〕(2015/01/11))
  • 本研究科修了生、大野光明さんの著書『沖縄闘争の時代1960/70』(人文書院、2014)の書評が毎日新聞(11/16書評欄)に掲載されました。
  • 千葉雅也准教授の著書『別のしかたで ツイッター哲学』の書評が、『週刊読書人』に掲載されました(評者:佐々木敦〔批評家〕(2014/09/26))。→リンク
  • 千葉雅也准教授が著書『別のしかたで ツイッター哲学』の出版に関連して『朝日新聞』の「著者に会いたい」欄に掲載されました(「「仮の輪郭」を選び取る」(2014/7/27))。→リンク
  • 修了生、元研究指導助手・永田貴聖(現・本学専門研究員)さんの著書『トランスナショナル・フィリピン人の民族誌』が『東南アジア―歴史と文化』43号(東南アジア学会 山川出版社刊行)に石井正子准教授(大阪大学大学院人間科学研究科)による新刊書紹介として掲載されました。リンク(amazon)→リンク
    永田さんの著書はこれまでにもいくつかの学術誌(『文化人類学』ほか)に書評として掲載されています。→リンク
  • 立岩真也教授の著書『造反有理――精神医療現代史へ』の書評が、『北海道新聞』に掲載されました(評者:石原孝二〔東京大学大学院准教授〕「資料で示す「停滞」の背景」(2014/01/26))。→リンク
  • 本研究科修了生の川口有美子さんが藤原書店主催の第9回「河上肇賞」の奨励賞を受賞しました!→リンク
「踏みとどまる思考――『動きすぎてはいけない』を読む」

企画概要

 立命館大学大学院先端総合学術研究科では、「踏みとどまる思考――『動きすぎてはいけない』を読む」と題して、千葉雅也氏の著書『動きすぎてはいけない:ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』の書評ワークショップを開催いたします。コメンテーターとして、分析哲学をご専門とする山口尚氏(京都大学非常勤講師)をお迎えいたします。
 予約不要、参加無料、学外の方も御参加いただけますので、ぜひお越しください。

開催日時・場所

  • 日時:1月31日(土)14:00~
    場所:立命館大学衣笠キャンパス創思館303・304号室
    内容:

    14:00~14:50 山口氏によるコメント「非意味の意味の可能性――『動きすぎてはいけない』への応答」
    15:00~15:50 千葉氏からの応答「意味をもちすぎない切断」
    (千葉氏と山口氏の対談形式)
    16:00~16:50 全体討議

  • 主催
    立命館大学大学院先端総合学術研究科