科学史・医学史研究会

院生代表者

  • 坂井 めぐみ

教員責任者

  • 松原 洋子

企画目的・実施計画

 本研究会は、2013年から行ってきた「科学史・医学史論文の読書会」を継承し発展させるものである。科学史・医学史に関する論文を精読することとメンバーの研究報告を通して、科学史・医学史の基礎を学ぶとともに、メンバーの研究をさらに深めることを目的としている。本研究会は、けがや障害、疾病、乳幼児など身体の状態に対して導入、展開されてきた医療・技術をめぐる事柄について、あるいは衛生に関する制度について歴史的な手法を用いて研究するメンバーを中心に構成されている。対象としている事柄は異なるが、歴史研究という方法論は共通している。本研究会は2013年から行ってきたため、修了生や専門研究員からの研究上の助言を得られる体制を整えており、現院生は本研究会の活発な議論を通じて互いの関心を共有し、各自の研究を深化、発展させることができる。 
実施計画としては、学会発表やジャーナルへの投稿にあわせ各自の研究発表、フィールドワークや調査後には調査報告会を行い、研究会メンバーで議論・意見交換をおこなう。

活動内容

  • 第1回科学史・医学史研究会
    日時:11月5日(土)、13時〜15時半
    場所:創思館410
    報告者① 三浦藍「岩龍寺の精神病治療と同時期の民間療法について」
    報告者② 西沢いづみ「堀川病院における高齢者医療の取り組み(1968年〜1972年)」
  • 『近代日本の公衆浴場運動』合評会(主催:立命館大学生存学研究センター、共催:科学史・医学史研究会)
    日時:1月29日(日)、13時半〜18時14:10
    場所:キャンパスプラザ京都6階 第1講習室
    自著解題: 川端美季氏(立命館大学)
    評者コメント:祐成保志氏(東京大学)
    評者コメント:杉山博昭氏(ノートルダム清心女子大学)
    院生指定質問:坂井めぐみ

成果及び今後の課題

 第1回科学史・医学史研究会では、メンバー2名の研究報告をおこなった。修了生や他研究科からの参加もあり、活発な議論が展開された。ディスカッションを通し、研究の方向性や構成、今後の課題を明確にすることができた。各メンバーの研究は歴史研究という方法が共通しているため、論文構成などの点で各自の研究につながるディスカッションになった。また、生命領域修了生の川端美季氏による『近代日本の公衆浴場運動』の合評会を立命館大学生存学研究センターとの共催でおこなった。メンバーの調査内容としては、脊髄戦傷の医療や陸軍病院に関する文献・史料(『国立箱根療養所業績集 脊髄損傷』、臨時東京第一陸軍病院関係史料)の閲覧及び複写のために「しょうけい館 戦傷病者史料館」に行った【坂井】。また、都道府県、政令指定都市にタンデムマススクリーニングの実施状況のアンケートをおこなった【笹谷】。
 今年度は、科学史・医学史に関する論文を精読することができなかった。メンバーの研究報告だけでなく論文精読も合わせて行い、科学史・医学史の基礎を学び、メンバーの研究を深化させることが今後の課題である。

構成メンバー

坂井めぐみ 生命領域 2011年度入学
笹谷絵里 生命領域 2014年度入学
三浦藍 生命領域 2016年度入学
西沢いづみ 生命領域 2008年度入学

「認知」研究会

院生代表者

  • 佐藤 伸彦

教員責任者

  • 井上 彰

企画目的・実施計画

 私たちは、日々、意識するかどうかに関わらず、何らかの意思決定を行っている。こうした意思決定をするにあたり、様々な事象を考慮し判断を下している。しかし、私たちは常に合理的に判断を下せるわけではなく、認知バイアスに陥り、度々判断に誤りが生じる。このような認知心理学的知見が、経済学や社会学など多分野で扱われている意思決定に関する研究に影響を与えている。これは、個人の意思決定の様々な場面が想定され、医師や裁判官など専門家の判断においても不確実な事象下では同様に誤りが生じるとされている。
 本院生プロジェクトでは、構成員の研究テーマに参考となる基礎的な認知心理学上の知見を学ぶことを目的とする。実施計画は、①『認知心理学』(有斐閣、2010)の輪読、②個別研究発表および外部講師を招いた研究会、③学会発表、の3つの方法により、研究を進めるものした。

活動内容

 活動は、10月の法と心理学会へ向けての話し合いや報告等③学会発表(およびそれへ向けての活動)がその中心となった。
 また、2月22日にNPO法人セカンドチャンス!理事長の才門辰史氏を講師として招き、公開研究会を開催した。この公開研究会に先行して、少年法の概観、反社会的行動における「認知のゆがみ」と道徳性の遅滞、セカンドチャンスの来歴、「立ち直り」の社会学、について研究会の構成メンバーの報告による事前勉強会を行った。
 輪読については、後期に入り日程を何度か設けたが、調整が上手くいかず、参加者が十分にそろわず、ほとんど回数を取れなかった。

成果及び今後の課題

 構成メンバーのうち、2名が他研究科院生とともに上記・法と心理学会にて報告を行っている。
 また、外部講師を招いた研究会では、「少年院出院者からみた社会」をテーマに、議論を通じた「現場」と「研究」の架橋の試みを行った。犯罪や非行の「立ち直り」について、少年院出院者とその出院者自身の経験や現状、今後の課題を伺いながら、意見交換・議論を行えたことは大きな成果であったと思われる。
 一方で、輪読を当初の計画では予定していたものの、十分に輪読の機会を設けることができなかったことは課題として残った。

構成メンバー

佐藤伸彦 公共領域・2015年度入学
中村亮太 公共領域・2013年度入学
伊東香純 公共領域・2015年度入学
高木美歩 公共領域・2015年度入学
北野廣平 公共領域・2016年度入学
※本研究科院生のみ記載

ビデオゲーム文化研究会

院生代表者

  • 梁 宇熹

教員責任者

  • 吉田 寛

企画目的・実施計画

本研究会の目的は、ビデオゲームをはじめとするコンテンツ分野に関する歴史・変遷・現状を巡って、特にグローバルな視点から、既存のゲームスタディーズや視覚文化に対する理解を深めながら、将来性を検討することである。 本研究会においては、個々分野の分析だけではなく、多数のコンテンツを横断的に概括し、今後のビデオゲームや視覚文化に関する研究の方向と課題の提出を試みる。また、申請者達は本研究会を媒介として、各分野に関心を持つメンバーによる交流と支援、そして情報交換のためのネットワークの基礎を構築する。これは研究会を通してメンバー各自の研究の質を高めることに意義がある。主に今年度では上記目的のため、各自が研究活動で使用する英語文献の輪読・紹介を重きに置いた。

活動内容

  • 第1回研究会
    日時:2016年7月29日(木) 17時30分~19時00分
    場所:究論館 プレゼンテーションルームA
    内容: 第一回では、江葉航が担当となり、Dani Cavallaro『Anime and the Visual Novel: Narrative Structure, Design and Play at the Crossroads of Animation and Computer Games』(Mcfarland & Co Inc Pub,2009)の文献紹介と議論を行った。この文献は所謂日本で「恋愛シミュレーション」と呼ばれるジャンルのゲーム分析を行ったものである。内容としてはシナリオ分析が多いものではあるが、ゲーム分析を行う際に重要な部分や、主人公とキャラクター性(設定)の問題、アニメとの比較など、ビジュアルノベルとその派生作品との比較分析をする際に重要となる論点や、ゲーム研究における物語性の論点について、十二分な議論を行う事が出来た。
  • 第2回研究会
    日時:2016年12月01日(木) 17時00分~19時00分
    場所:究論館 プレゼンテーションルームA
    内容: 第二回例会では、川﨑寧生が担当となり、Carly A. Kourek『Coin-Operated Americans:Rebooting Boyhood At The Video Game Arcade,』(U.S.A:University of Minnesota Press,2015)の文献紹介と議論を行った。本文献は米国のアーケード文化史の、初期から00年代のプレイヤー文化に焦点を絞って分析されていた。本会ではとりわけこの書籍の中でも社会統制に関する部分が取り上げられ、アメリカにおける法制度や女性の社会進出といった、時代によって移り変わる社会背景とゲームがどのように関わるかという論点について、多岐に渡る議論が行われた。
  • 第3回研究会
    日時:2017年02月02日(木) 17時30分~19時00分
    場所:プレゼンテーションルームA
    内容: 第三回例会では、周鵬が担当となり、Miguel Sicart『Play Matters』(Cambridge: The MIT press,2014)の文献紹介と議論が行われた。本文献はビデオゲームも含めた遊戯論に関する文献である。本例会ではこの文献の遊びに対する姿勢(Playfulness)に議論の焦点が集まり、Playとしてのあり方や破壊からの再創造を主なものとするPlayfulness、それと相対するビデオゲームのシステム的な問題、Playfulnessの考え自体が持つ政治性など、様々な議論を行うことができた。
  • 第4回研究会
    日時:2017年02月25日(土) 12時00分~18時00分
    場所:大阪・日本橋~動物園前
    内容: 第四回例会では、本プロジェクトに留学生が多いということもあり、日本独自のゲーム文化を観察、分析するために、関西におけるゲーム文化のポータルと呼べる場所である、大阪日本橋を「でんでんタウン」、「オタロード」を中心に観察を行った。当日は全員が参加することはできなかったが、留学生に対し現地に20年前ほどから主に行っている川﨑がガイドとなり、ゲームセンターやゲーム店などを中心に観察を行った。結果的に留学生には異文化としての日本のゲーム文化の特殊性を把握することが出来、また川﨑や同行した吉田寛教授には、日本にいるだけではわからない中・韓から見た日本のゲーム文化の特殊性を見る事ができた。

成果及び今後の課題

 本研究会ではとりわけ各人が読み進めている英語文献を中心に現行専門化しつつある各ゲーム研究領域の共有化を努め、各々の研究テーマに合わせた文献を紹介し、議論を行うことで、参加者がより研究を進めながら活発に議論が行う場を作ることが出来た。また、本研究会所属の留学生が多いために行った大阪日本橋での観察は、日中韓とゲームに関する様々な様相が異なる研究生達の認識を共有し、各人の研究に活かす場を作ることが出来た。
 今後もこのような研究会を行い、参加者間におけるゲーム研究に関する理解を深めつつ、今後より活発になると思われるゲーム研究について、更に深い議論の場を作る事を考えている。また、議論を進めるだけではなく、今後もさらに研究会での内容を踏まえた発表や、論文作成へと発展させていきたい。

構成メンバー

梁 宇熹(表象領域・2012年度入学・代表者)
焦 岩(表象領域・2014年度入学・研究分担者)
川崎 寧生(表象領域・2008年度入学)
辛 注衡(表象領域・2014年度入学)
周 鵬(表象領域・2015年度入学)
向江 駿佑(表象領域・2015年度入学)
江 葉航(表象領域・2015年度入学)

昭和期表象文化研究会

院生代表者

  • 張 憲

教員責任者

  • 竹中 悠美

企画目的・実施計画

 本研究会は昭和期の表象文化に着目し、「昭和」のイメージがどのように表象・継承されているのかを、版画、絵画、文学、祝祭の4つの観点から多角的に明らかにすることを目的とした。2016年は下記のような昭和期を扱った展覧会が充実しており、複数の分野から比較研究をするには絶好の機会であった。本研究会では昭和期の美術を扱った展覧会と重要な出来事に纏わる式典を見学した。これによって、昭和の時代性を示す資料として何が収集されているのか(またはされなかったのか)、そこにどのような特質が見出せるかを、複数の分野から検討し比較することを目指した。活動としては、各メンバーは自分の専門分野にあった展覧会や式典を見学し、資料収集と可能な限り聞き取り調査を試み、報告会にて共有した。張(版画担当)は町田市立国際版画美術館(神奈川県)で開催された「小野忠重コレクション展――近代日本版画」展(2016年7月9日~9月22日)の見学を行った。枝木(文学担当)は弥生美術館(東京都)で開催された「耽美・華麗・悪魔主義 谷崎潤一郎文学の着物を見る」展(3月31日~6月26日)の調査を行った。高見澤(絵画担当)は板橋区立美術館(東京都)で開催中の展覧会、「絵画・時代の窓 1920s-1950s」展(4月9日~6月19日)を見学した。後山(祝祭担当)は8月6日に平和記念公園(広島県)で開催される「平成28年広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式」と8月9日に松山町平和公園(長崎県)で開催される「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」へ参加した。

活動内容

  • 第1回報告会 
    日時:2016年12月13日(火)12時00分~13時00分
    場所:衣笠キャンパス究論館公共スペース
    発表者:枝木妙子
    内容:枝木の調査報告と執筆中であった展覧会批評の発表を行い、ディスカッションを行った。
  • 第2回報告会
    日時:2017年2月21日(火)14時30分~16時30分
    場所:衣笠キャンパス究論館公共スペース
    発表者:高見澤なごみ、後山剛毅、張憲
    内容:高見澤と後山の調査報告とディスカッションを行った。張はこの日出席できなかったため、レポートで報告を行った。

成果及び今後の課題

 それぞれの調査で得られた成果は以下である。
張は、昭和期の近代版画を調査し、竹久夢二などの昭和期に制作された版画の表現が後に中国の年画に取り入れられていることを指摘し、昭和期の版画と中国の年画との関連性を指摘した。枝木が担当した弥生美術館の展示では、谷崎潤一郎の文学作品の描写にあわせて当時着用されていた着物が収集・展示されていた。谷崎は濃密な女性描写のために作中であえてシミや汚れを積極的に記述している。古い着物の汚れをそのまま展示していたことで谷崎作品の女性描写を再現することに成功していることを明らかにした。この成果は展覧会批評「谷崎の見た着物と女――『谷崎潤一郎文学の着物を見る』展評」として『コア・エシックス』Vol.13に掲載される予定である。高見澤は1920年代~1950年代の画家たちが、作風を変えながらも一貫して社会への不安や悲惨な現実を題材としていることに昭和期の絵画の傾向を見出した。また表現においても同じような構図やモチーフが複数回登場していることが指摘した。
 後山は広島と長崎の平和祈念式典のプログラムや司会、参加者の様子を比較し、行政主導で行われる広島の式典が厳粛で静かなのに対し、高校生や被爆者が中心となって会を進める長崎の式典は明るい印象を受け、両者の式典には明らかな温度差があることを明らかにした。
 これらの活動内容を共有し議論するなかで、昭和表象の多様性を確認することができただけでなく、各分野での展示方法の違いについても考えるきっかけとなった。また、メンバーが実際に調査を行い報告することでそれぞれの調査の様子を共有でき、調査方法の改善点も指摘された。さらに、本研究会は調査した内容を展覧会批評にまとめ投稿することを目標とし、最終的に1名が『コア・エシックス』にて成果を公開するに至った。しかし、メンバーの各分野への基礎知識や関心にバラつきがあったため、当初目標としていた各分野での昭和期の表象を比較しながら議論を深める作業を十分に行うことが出来ず、今後の課題であると考えている。

構成メンバー

張憲(表象領域 2013年度入学)
枝木妙子(表象領域 2013年度入学)
髙見澤なごみ(表象領域 2014年度入学)
後山剛毅(表象 2015年度入学)

母子世帯の生活困窮研究会

院生代表者

  • 笹谷 絵里

教員責任者

  • 立岩 真也

企画目的・実施計画

 本研究会の目的は、京都市内の母子世帯が直面している生活困窮の実態について、母子世帯の母親に対してインタビュー調査を行い、その調査結果を分析することである。母子世帯の生活困窮の背後にある重層的要因を分析するために、本プロジェクトは母子世帯の母親の自律性、とりわけ、時間的・経済的自律性に着目する。その理由は、先行研究において経済的困窮と時間貧困が述べられているものの、両者の関連についての分析がより一層必要とされているからである。本プロジェクトの意義は、実施したインタビュー調査の結果を分析することによって、母子世帯の母親の時間的・経済的自律性を規定する重層的要因の在り方を分析し、生活困窮の解消に向けた制度・政策の議論の基盤を提供しようと目指す点にある。

活動内容

  • 2017年6月11日 
    調査 15:30~16:30
     調査対象者1名についてインタビュー調査を実施。
    第1回研究会 17:00~19:00
     社会政策とジェンダー論を専攻している堅田香緒里准教授(法政大学)を招聘し、講演いただくととともに研究内容について検討を行った。今後も、質的調査を実施し、研究の充実を図るとともに、調査内容を学会発表や論文としていくことを検討した。本研究科修了生を含め多数の参加があり活発な議論が行えた。
  • 2017年9月11日
    日本社会福祉学会 第64回秋季大会【ポスターセッション】での発表
    発表題目:日本のローンマザーの時間と経済に関する自律性
      副題:インタビュー調査と子育て関連ケイパビリティからの分析
  • 2017年1月7日 
    調査 14:00~16:00
     調査対象者2名について、インタビュー調査を実施。
    第2回研究会 16:00~18:00
     第2回の研究会のテーマは、ゲスト講師を招聘して当事者へのインタビュー調査等の質的研究と母子世帯の生活困窮に関する理論研究の架橋について検討することであった。ゲスト講師は、社会政策とジェンダー論を専攻している堅田香緒里准教授(法政大学)を招聘した。5名の参加(その一人はスカイプで途中参加)があり、各人の研究関心に即した活発な議論があった。

成果及び今後の課題

 本プロジェクトでは、2016年6月にインタビュー調査及びゲスト講師を招聘してインタビュー調査を実施する上での着眼点である時間的・経済的自律性について検討する研究会を実施した。ゲスト講師は、社会政策とジェンダー論を専攻している堅田香緒里准教授(法政大学)を招聘した。第1回の調査対象者は、同様の研究課題を遂行した「労働問題・不安定生活・保証所得をめぐる国際的研究」(通称:労働研)のメンバーから紹介を受けた。研究方法として半構造化インタビューを採用して実施した。
 先の労働研のインタビュー結果と第1回のインタビュー結果を合せた母子世帯の母親の生活困窮の実態を分析し、その中間報告を9月に実施される日本社会福祉学会でポスターセッションでの発表を行った。発表題目:日本のローンマザーの時間と経済に関する自律性――インタビュー調査と子育て関連ケイパビリティからの分析である。ポスター発表ではケイパビリティを中心とした理論研究、社会政策の研究者などから多数の質問があり、活発な議論が行えたことは、本研究会の成果であり今後の研究に活かすことができるものであった。1月初旬に、インタビュー調査とともに、堅田准教授をゲストに招いた第2回の研究会を実施した。当初目標としていた日本社会福祉学会の学会誌への投稿には調査や分析が不十分であり今後の課題としたい。

構成メンバー

伊藤香純(公共領域・2015年度入学)
佐草智久(公共領域・2013年度入学)
中村亮太(公共領域・2013年度入学)
三輪佳子(公共領域・2014年度入学)
笹谷絵里(生命領域・2014年度入学)

表象文化におけるセクシュアリティ/ジェンダー研究会

院生代表者

  • 向江 駿佑

教員責任者

  • 小川 さやか

企画目的・実施計画

 近年、一部で同性愛者同士の婚姻が認められたり、児童ポルノ関連法案が成立したりするなど、広く「性」をめぐる動きが活性化している。こうした動きはしばしば政治的な観点から論じられるが、我々が日々消費している表象文化に目を向けることでこそ、問題をより身近なものとして論じることができる。本プロジェクトは、初年度のテーマとして乙女・美少女カルチャーにおけるセクシュアリティとジェンダーの表象、とりわけ巨大な市場が存在しながら学術的研究が滞っている「乙女ゲーム」の文化的意義を主たる研究の対象とする。具体的には理論研究と資料分析のほか、現物や資料が集まる東西の拠点である、大阪日本橋の「オタロード」と東京池袋の「乙女ロード」でフィールドワークを行う。また本プロジェクトには学外研究者の参加も予定されているため、前後期で数回のワークショップをおこない、その成果を学会等で報告することを検討している。

活動内容

  • 第一回フィールドワーク 
    日時:2016年6月12日
    場所:大阪・日本橋
    内容:大阪・日本橋の「オタロード」において乙女・美少女カルチャーについての調査
  • 第一回公開研究会 
    日時 : 2016年7月14日
    場所 : 究論館プレゼンテーションルームA
    内容 : Tina Richards、Kristine Øygardsliaの両氏による報告とそれに基づく公開討論会
  • 第二回公開研究会 
    日時 : 2016年10月25日
    場所 : 究論館プレゼンテーションルームA
    内容 : 愛知淑徳大の松井広志氏によるモノのメディア化に関する報告および夏季休暇中に行われた向江の欧州でのゲームスタディーズの調査報告
  • 第二回フィールドワーク 
    日時 : 2016年12月24-25日
    場所 : 東京・池袋、秋葉原など
    内容 : 池袋と秋葉原を中心とした都内の乙女・美少女カルチャーについての調査
  • 学会発表
    日時 : 2017年3月12日
    場所 : 名古屋・成城大学
    内容 : 日本デジタルゲーム学会2016年度年次大会において向江・劉が報告(「乙女ゲームにおける慰めのストラテジー」)。

成果及び今後の課題

 本プロジェクトは2016年度開始であり、本年度は「調査」の年であった。2度の公開討論会とフィールドワークを通じて得た知見を、学会発表などを通じて内外の研究者に共有するという一連の活動において、今日の表象文化におけるジェンダーとセクシュアリティをめぐる多様な言説がどのように生み出されるのかの一端を確認することができた。一方で、収集したデータの活用方法や体系化など、検討すべき課題も多い。今後はこうした調査によって得た知見を体系的にマッピングしていく「設計」、それをもとに理論構築とデータの公開を行う「集成」の各段階に向けて、場合によっては複数年度に渡る中長期的な計画を立案しつつ、今年度行なった調査に関しても継続して行っていく。

構成メンバー

向江 駿佑(表象領域・2015年度入学)
シン・ジュヒョン(共生領域・2014年度入学)
劉雨瞳(表象領域・2016年度入学)

芸術経験と作品存在の哲学的解釈学的研究

院生代表者

  • 根岸 貴哉

教員責任者

  • 竹中 悠美

企画目的・実施計画

 本プロジェクトの目的はハンス・ゲオルク・ガダマーの『真理と方法Ⅰ』(轡田収他訳、法政大学出版局、1986)の講読を、芸術経験や作品について論ずる際の解釈学的方法論を理解することであった。しかし、招聘予定であった講師の都合により困難になったため、代替講師として大阪大学名誉教授である上倉庸敬を招聘し、 エチエンヌ・ジルソンの『絵画と現実』(佐々木健一、谷川渥、山縣熙訳、岩波書店、1985年/11)の購読を進めることとなった。本書は、哲学の手法を用い、絵画を考察するためのものであり、芸術経験を哲学的に考察することを目的とする本研究会の趣旨に合致している。本書における「現存」概念や絵画作品の実在論の理解を通して、各研究分野への応用を目指した。

活動内容

  • 第1回研究会
  • 日時:2016年10月26日(水) 18時00分~21時00分
    場所:衣笠キャンパス究論館プレゼンテーションルームC
    内容:ガダマー『真理と方法』の60頁から80頁までの予習を行った。

  • 第2回研究会
  • 日時:2016年11月16日(水) 18時00分~21時00分
    場所:衣笠キャンパス究論館プレゼンテーションルームA
    内容:上倉先生を招聘して、エチエンヌ・ジルソン『絵画と現実』における現存(existence)概念について議論を行った。

  • 第3回研究会
  • 日時:2016年11月30日(水) 18時30分~21時00分
    場所:衣笠キャンパス究論館プレゼンテーションルームC
    内容:上倉先生を招聘して、『絵画と現実』における「物理的現存性」についての確認を行った。

  • 第4回研究会
  • 日時:2017年2月8日(水) 16時00分~19時30分
    場所:衣笠キャンパス究論館コミュニケーションルーム
    内容:上倉先生を招聘して、『絵画と現実』における「存在様態」に関連する点を議論した。

  • 第5回研究会
  • 日時:2017年2月11日(土) 16時30分~19時30分
    場所:衣笠キャンパス究論館プレゼンテーションルームC
    内容:上倉先生を招聘して『絵画と現実』における運動性・連続性の問題から、絵画作品と音楽作品の比較、検討を行った。

成果及び今後の課題

 本プロジェクトの成果としては、以下のものが挙げられる。第一に、哲学的な問題を通して、絵画作品の実在論について理解できた点である。物理的現存容態、芸術的美的現存容態といった絵画作品に関連する現存容態を確認した。そのうえで重要なことは、美的経験は存在の容態、客観存在の容態におおいに依存しているということであった。また、絵画作品における運動性問題を、「ラオコーン論争」などを例にとり、様々な美術史家、美学者の観点から考察した。
 これらの問題を各章、各文節ごとに英語、フランス文献などの原文、また背景となっている議論なども確認しつつひじょうに細かく購読を進めたことにより、哲学や芸術に関する知識を得ただけではなく、書籍の「読書法」の一助にもなった。くわえて、絵画と音楽の比較や、絵画における運動性の問題などを各参加メンバーの興味、関心や専門に近しい問題が取り上げられていたため、積極的な議論を行うことができた。
 その一方で、講読の速度が遅かった点は、昨年度から引き続き課題として挙げられる。今後も参加者の関心に合わせて十分な議論を行っていくことは、各自の研究の発展にとって要であると考える。

構成メンバー

根岸 貴哉(表象領域・2014年度入学)
向江 駿佑(表象領域・2015年度入学)
焦 岩(表象領域・2014年度入学)
髙見澤 なごみ(表象領域・2014年度入学)
西澤 忠志(表象領域・2016年度入学)