Call for Papers:Catastrophe and Justice

Call for Papers

Catastrophe and Justice

The 8th International Conference of the Faculty of Core Ethics and Frontier Sciences,Soshikan Conference Room, Ritsumeikan University, Kyoto, Japan, March 21-22, 2012
報告者(予定)など詳細はこちら
↑ 2012年1月以降随時更新

Word file(doc)

Purpose:
Recently theories of justice progressed remarkably through responding to challenges by social movements such as feminism, multiculturalism or cultural studies. Yet events like the catastrophe recently experienced in Fukushima, Japan raise questions for theories of justice. For example: can we continue to base our reactions on such notions as freedom, rights, equity, reciprocity and human security— all of which are pivotal to social justice— in catastrophic situations? Catastrophe, as it is understood here is not restricted to the type of evident calamity such as natural disasters, war or economic collapse. If we loosely define the concept of catastrophe as an experience which happens both accidentally and inevitably, or which brutally disrupts between the relation between ordinary and the non-ordinary, then there may have been many events which we should have recognized as catastrophes, but failed to. The purpose of this conference is to reexamine the modern theories of justice, their limit and possibilities in a broader angle in relation to the issue of catastrophe.

近年、正義論は、フェミニズム、多文化主義、カルチュラル・スタディーズなどの挑戦を受けて大きく発展した。だが、このたび日本のフクシマが体験したカタストロフィは正義論に新たな問いを突きつける。自由、権利、衡平性、相互性、人間の安全保障などこれまで社会正義の中心にあった概念は、破局的な状況において、はたしてどこまで有効性をもちうるのか、と。ただし、ここでいうカタストロフィとは、災害や戦争、経済破綻など、だれの目にも明白な惨事に限定されない。むしろその本質を、日常と非日常が荒々しく分断される体験、さらには、偶然であるとともに必然であると感じられる体験に見出すならば、カタストロフィは、われわれの生活のただ中に――それとして認識されることなく――存在することになる。本コンファレンスの目的は、現代正義論の限界と可能性をより広い視角のもとでとらえ返すことを目的とする。

Invited Speakers:
Prof. Jean-Pierre Dupuy, Stanford University (USA)
Prof. Frédéric Worms, Université de Lille et École Normale Supérieure (France)
Prof. Osamu Nishitani, Tokyo University of Foreign Studies(Tokyo, Japan)
Prof. Itoko Kitahara, Ritsumeikan University(Kyoto, Japan)
And others

Eligibility
Anyone from any country and any disciplines can apply. Graduates students, postgraduates fellows and recent graduates*are mostly encouraged to submit a proposal.

院生、若手研究者をはじめとして、どなたでも報告申し込みできます。

Submissions
Submissions should be in the form of an abstract of a maximum of 2 pages (500 words) and should be sent electronically to the following address justiceandcatastrophe (at) gmail.com [atを@に変えてください]  Papers read at the conference should not exceed 25 minutes. Deadline for submissions is October 31 and the results will be made public by November 8.

⇒Change the deadline for submission to  November 30.

10月31日までに、英語あるいは日本語の報告概要を justiceandcatastrophe (at) gmail.com [atを@に変えてください]  にお送りください。概要は2ページ(英語の場合は500語)を上限とします。選考結果は11月8日までにお知らせします。
⇒締切が11月30日になりました!

Financial help:
The living expenses of speakers (hotel and food) for the duration of the conference will be taken care by the conference organization.

報告者に関しては、コンファレンス期間の宿泊、昼食&夕食などはこちらで用意します。

Languages
Languages of the conference are English and Japanese. Submissions can be made in either of those two languages. In the case of Japanese, we will require English translation after the submission is accepted.

コンファレンスで使用する言語は英語と日本語です。報告はいずれでも可能です。ただし、日本語の報告概要で受理された場合には、後日に設定される期限までに長めの英文アブストラクトをお願いします。

Organizers: International Justice and Symbiosis Center, Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences & Institute of Language and Culture, Ritsumeikan University, Kyoto, Japan.

(Coordinators) Paul Dumouchel & Reiko Gotoh, Professors, Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences, Ritsumeikan University, Kyoto, Japan.

2011年9月先端研国際ワークショップのお知らせ

Pre-Workshops of The 8th International Conference of the Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences: “Catastrophe and Justice”

2011年9月先端研国際ワークショップのお知らせ

来る2012年3月に、第8回先端研国際コンファレンス「カタストロフィと正義」が開催されます。それに向けてこの9月に下記の2つのワークショップをもちます。その目的は、社会・技術・自然環境との関係で広く正義概念をとらえ返すことにあります。
なお、Des Gasper氏は、同志社大学グローバル研究科主催の「人間の安全保障」学会(9月17日、18日; http://www.janp.sfc.keio.ac.jp/JAHSS/index.html)の基調報告者の1人です。あわせてご参加ください。

*いずれも逐次通訳を予定しています。

The 1st Workshop: September 15, 16:00-18:00
Venue: Ritsumeikan International Peace Museum 3rd flour
Lecturer: Dominique Lestel (École Normale Supérieure, Paris)
Theme: Humans, Animals and Artifacts (tentative)

The 2nd Workshop: September 20, 10:00-12:00
Venue: Ritsumeikan International Peace Museum 3rd flour
Lecturer: Des Gasper (Erasmus University Rotterdam)
Theme: Influencing the Climate – explorations in interpretive and value-critical policy analysis
Comments: Naoki Morishita (postdoctoral fellow of Ritsumeikan University), Kazuo Okada (graduate students of Ritsumeikan University)
(Note: This paper contrasts a range of studies on the challenges posed by climate change, in terms of whose interests they take into account and prioritise. Text is online at:
http://www.iss.nl/News/Past-Events/Influencing-the-Climate-Explorations-in-interpretive-and-value-critical-policy-analysis)

Organizers: The Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences
Coordinator: Paul Dumouchel and Reiko Gotoh

Fund: JSPS, “Towards Clinical Application of Capability Approach—A Trial of Well-being Economics—”(「潜在能力アプローチの臨床的適用プログラムの設計――福祉経済学の試み――」基盤研究C); Thiel Foundation, “Artificial Empathy and Imitation”.

Profiles of lecturers:
Dominique Lestel, is assistant professor of cognitive ethology at the École Normale Supérieure, Paris and member of the CNRS research center on eco-anthropology and ethnobiology.

Recent publications include:
Les amis de mes amis, Seuil : Paris, 2007
L’Animal est l’avenir de l’homme, Flammarion : Paris, 2010.

Des Gasper
Professor of Human Development, Development Ethics and Public Policy
International Institute of Social Studies (Erasmus University Rotterdam),
PO Box 29776, NL-2502 LT  The Hague, Netherlands

Recent publications include:
– 2010: Development Ethics. Co-editor Asuncion Lera St. Clair. Aldershot: Ashgate.
– 2010: Understanding the Diversity of Conceptions of Well-Being and Quality of Life. J. of Socio-Economics, 39(3), 351-360.
– 2010: ‘The Idea of Human Security’, in K. O’Brien, A.L. St.Clair, B. Kristoffersen (eds.), Climate Change, Ethics and Human Security, Cambridge Univ. Press, pp.23-46.
– 2010: Trees and Water – Mainstreaming Environment In The Graduate Policy Analysis Curriculum. Co-author: S.Tankha. J. of Public Affairs Education, 16(4), 621-644.
You can access some of his papers on SSRN at: http://ssrn.com/author=220649

9月15日Dominique Lestel氏とのワークショップの当日の様子

2011年9月15日ドミニク・レステル氏ワークショップ:ドミニク・レステル氏と通訳者2011年9月15日ドミニク・レステル氏ワークショップの光景2:参加者

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立命館大学衣笠独立研究科事務室
TEL: 075-465-8348
E-mail: doku-ken@st.ritsumei.ac.jp
〒603-8577
京都市北区等持院北町 56-1

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松原 洋子(まつばら・ようこ)

松原写真

領域

生命

職位

教授

専門

科学論
ジェンダー論

担当科目

生命論II/生命論CB
生命論史
プロジェクト予備演習III(生命)
プロジェクト演習(生命)

業績

※21年度以降の最新情報は、下記にリンクされている研究者学術情報データベースをご参照ください。

2020年度 業績一覧
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研究者学術情報データベース

  • 研究者学術情報データベース
  • 立命館大学の奨学金・支援制度

    立命館大学には、本研究科院生が利用できる研究支援制度が数多くあります。
    以下は利用できる支援制度の一部です。制度は変更される場合があります。詳細は、入学手続き時または入学時に説明します。
     

    院生のための奨学金・研究活動助成制度

    • 先端総合学術研究科出版助成制度
    • 先端総合学術研究科院生プロジェクト
    • 立命館大学西園寺大学院進学奨励奨学金
    • 立命館大学大学院特別奨励奨学金(S・A・B)
    • 立命館大学大学院特別育英奨学金(S・A・B)
    • 立命館大学大学院学生学会発表補助金
    • 立命館大学大学院博士課程後期課程研究奨励奨学金(S・A・B)
    • クレオテック大学院私費留学生奨学金
    • 立命館大学大学院博士課程後期課程国際的研究活動促進研究費
    • 立命館大学大学院博士課程後期課程学生学会発表補助金
    • 立命館大学大学院研究会活動支援制度
    • 立命館大学生存学研究センターにおける各種研究活動助成制度

     

    立命館大学大学院生に対する奨学金・支援制度の概要

     ■修士・博士課程前期課程・一貫制博士課程(1~2回生)
     ■博士課程後期課程・一貫制博士課程(3回生~)・4年制博士課程
     

    日本学術振興会特別研究員など採用へのサポート

    本研究科では、現在の研究者にとって必須である研究計画書の作成に対するサポート体制が充実しています。その結果として、多くの院生・修了生が日本学術振興会特別研究員ならびに立命館大学専門研究員プログラムに採用されています。

    研究計画書作成のサポート

    • 「アカデミックライティングIV」での研究計画書作成指導
    • 研究指導助手による研究計画書作成サポート

    これまでの日本学術振興会特別研究員採用者

    • 2012年度 DC 9名 + PD 6名
    • 2013年度 DC 2名 + PD 3名
    • 2014年度 DC 4名 + PD 2名
    • 2015年度 DC 2名 + PD 4名
    • 2016年度 DC 1名 + PD 1名
    • 2017年度 DC 2名 + PD 1名 + RPD 1名
    • 2018年度 DC 4名
    • 2019年度 DC 2名 + PD 1名 + RPD 1名
    • 2020年度 DC 3名 + PD 1名
    • 2021年度 DC 4名 
    • 2022年度 DC 5名 
    • 2023年度 DC 4名 
    • 2024年度 DC 1名 

    これまでの立命館大学専門研究員プログラム(旧ポストドクトラルフェロープログラム) 新規採択者

    • 2012年度 3名
    • 2013年度 4名
    • 2014年度 4名
    • 2015年度 0名
    • 2016年度 3名
    • 2017年度 1名
    • 2018年度 0名
    • 2019年度 2名
    • 2020年度 0名
    • 2021年度 1名
    • 2022年度 1名

    これまでの大学院高度化施策初任研究員採択者数

    • 2019年度 1名
    • 2020年度 3名

    立命館NEXTフェローシッププログラム

    • 2021年度 1名

    立命館先端研究アカデミー次世代研究者育成プログラム

    • 2021年度 1名
    • 2022年度 1名

    ※採択者は先端総合学術研究科修了生のみをカウントしています。

    開設5年の到達点

    2007年10月18日

    (立命館大学大学院先端総合学術研究科設置認可申請書より)

    先端総合学術研究科は、立命館大学のリソースを最大限に活用し、学内設置の諸研究所・研究センターとの連携構築をめざしながら、プロジェクト参加型の研究者養成を目標に掲げ、2003年4月に一貫制博士課程として発足した。既存の学部を基礎としたディシプリンを軸とした研究科とは発想をことにする独立研究科による研究者養成の試みである。
    本研究の設置の趣旨は、20世紀における自然科学の発展のインパクトを受けとめつつ人社系学問分野を批判的に再構築する能力と意欲を持った研究者を養成することを目指している。学問の刷新を「先端性」と「総合性」の両面から押し進めるという野心的な試みである。

    このような目的を達成するために、(a)「核心としての倫理」(コア・エシックス)を軸とし、(b)人文科学、社会科学、自然科学の3分野を横断する先端的で総合的なテーマを設定し、(c)本学の研究所・研究センターと連携し、学内外の研究者とネットワークを構築して、ディシプリンを横断するプロジェクト研究を活用し、(d)時代的要請に応えうる柔軟な構造を備えた教育システムを構築することをめざした。世界の現実の動向との接触面であり、新たな学問的課題が産出されるべき先端領域として、「公共」=公共性の再定義、「生命」=生命・環境の倫理、「共生」=多文化・多言語主義、「表象」=ディジタル時代の芸術表象、の4つのテーマ領域を設定した。
    研究科のカリキュラムは、自立したプロジェクト参加・推進者として院生を育てることを目標としている。院生に明確な研究テーマと研究計画を持たせ、世界で通用する基礎能力を養成し(講読演習の重視)、これからの研究に必須な多様なスキルを獲得させ(独自のスキル科目)、プロジェクト運営の能力と責任感を養っている。
    学部を基礎とした研究科とは異なり、ディシプリン中心からテーマ中心へ、プロジェクト中心への転換である。4テーマ領域は倫理的な問題意識の共有という点ばかりでなく、内容的にも相互に連環しており、既存の「系・分野・分科」区分とは必ずしも対応しない。プロジェクトそのものは研究科の専任担当教員が、一定の基礎的な予算のうえに、競争的な外部のファンドあるいは学内の研究補助金を獲得して推進し、そこに院生が参加することを基本としている。したがって担当者にはプロジェクト推進の能力が求められる。また、プロジェクト参加による院生の研究推進能力の養成を補完するものとして、それぞれの問題意識に対応した学会への所属と学会報告をおこなうことを積極的に推奨し、実績をあげている。一貫制博士課程として、一年次からの講義、スキル科目、および2年次の「博士予備論文」の準備(研究科の主要な「定期学会」ともいえる「博士予備論文構想発表会」の開催)、博士論文準備のための演習科目、演習における複数ディシプリンの担当者による指導、担当者による個別の論文指導によって構成されるコースワークは、新たな問題意識と研究能力をそなえた研究者養成のモデル構築の役割を果たしうることを目標としている。

     本研究科は、上記のような設置趣旨に呼応して、開設以来きわめて明確な問題意識と研究目標をもった者が数多く入学してきた。「プロジェクトを基礎とした人社系研究者養成」プログラム(プロジェクトベーストプログラム)を設定し、院生たちの個性的な問題意識を育てつつ、それに明確な表現を与え、彼ら自らが普遍性をそなえた説得力ある論理展開にまで練り上げる力をつける努力を行ってきた。
     とりわけ、次の4点を目標として取り組んできた。

    (a) 論文構築の基礎能力を強化する
    (b) 「スキル系科目」を強化する
    (c) 国際シンポジウム、プロジェクト研究における協働実践を強化する
    (d) 人的ネットワークをいっそう拡大強化する

    これらに即して、スキル系科目の今後の院生教育における必要性と重要性の検討作業、海外留学やフィールドワーク中の院生、遠隔地からの通学者などに、有効な研究指導を行うためのシステムについて検討、海外も含めたプロジェクトベーストプログラム型教育システムの調査・検証を進めつつ、具体的な強化を目指してきた。そのために海外におけるプロジェクト研究を主軸とした研究者養成教育機関との積極的な交流および協力協定の締結にも取り組んできた。
    こうした目的にかんがみ2005年度「魅力ある大学院教育イニシアティブ」に「プロジェクトを基礎とした人社系研究者養成プログラム」として応募し、幸運にも採択された。このプログラムは、本研究科が2003年の開設以来すでに2年間に試行し実施し有効性を検証してきた、すでにのべたプロジェクトを基礎とした研究者養成のメインのコースワークおよびプロジェクトにおける院生自身の研究活動をより高度化するために何が必要かを熟考した。その結果、それをいっそう補強し効果的なコースに高めることを目的として構想されたものである。以下に示すのは当プログラムにおいて実施された目標および活動内容である。

    (a)論文構築基礎能力の強化
     院生各自の固有の問題意識を尊重しながら、かつ開花させるためには、この「論文構築基礎能力」の強化がもっとも重要である。したがって、2005年度に日本語・英語の論文指導スタッフを雇用し、直接面談指導やEメール、メーリングリストなどを活用したきめ細かな指導を通じて、論文指導の基礎能力の構築に努めてきた。また、スタッフが常駐する論文指導室を開室することで、院生に日常的に指導を行う体制を構築した。院生のニーズは高く、多くの院生が利用した。
     一方で、本研究科には一定数の遠隔地に在住する有職者の院生が在籍しているが、彼らに対しては、Eメールや電話などの媒体を利用した遠隔指導が特に効果を挙げた。
    日本語・英語それぞれの論文指導に専念して担当できるスタッフが在室し、本研究科の専任教員と密接な連携をとることで、論文指導体制はより強化できた。また、論文作成のための関連図書、消耗品、機器備品等を購入・備え付けることで、より充実した論文指導を行える環境が整備された。院生指導の経験を踏まえ、「日本語論文作成マニュアル」、「英語論文作成マニュアル」を作成し、個別指導の効果の向上を図った。

    (b)スキル系科目の強化
     ディジタルスキルおよびリサーチメソッドという科目群のよりいっそうの高度化に向けた方向性を検討するために、当該科目の担当教員のヒアリングおよび院生の授業アンケートを実施した。その結果、高度化の具体的な方策については、更なる情報の収集を進めるとともに、問題点を多角的に検討し、本研究科に適した科目内容についての議論を継続することとした。研究科として進むべき方向性を確定して、高度化に向けて作業を進める予定である。
     また、スキル系科目(アカデミックライティング)とも関連するライティングセンターについては、日本ではまだライティングセンターが普及していないという事情もあり、2006年2月にアメリカのライティングセンターの視察を行った。具体的には、Pennsylvania
    State University、American University、University of Maryland、Duke
    Universityの計4大学7つのライティングセンターを訪問・調査し、情報収集とアメリカの大学における現状も把握して、報告書を作成した。加えて、実際にアメリカの大学院でライティングセンターを利用したことのある日本人の方にも協力を要請し、レポートを作成した。また、同月早稲田大学で開催されたシンポジウム"Waseda
    Symposium on Teaching and Research in Academic Writing"にも参加し、日本国内におけるライティングセンターの実情も把握した。
     英語ライティングの調査をしていく中で、英語ライティングとは「資料収集から分析、構成、実際の論文の執筆、そして要旨の提示」という一連の作業全体を英語で行う構想の過程であり、英語ライティングの方法の模索を行うことは、言語を別にすると、それ以外は日本語論文の構築の方法にほかならないということを再認識した。
     これらの出張報告書やその他の情報をもとに、将来のあるべきライティングセンターのあり方を展望に入れ、研究科内で議論を重ね、全学に対しても、ライティングセンターの必要性を繰り返し力説してきた。その結果、少しずつではあるが、全学で大学院生を対象としたライティングセンターが必要であるという声が高まってきている。本研究科では、本教育プログラムの中で実施してきた調査・情報収集で得た内容を、全学的なライティングセンター設立に向けて積極的に提供する活用する。

    (c)国際シンポジウム、プロジェクト研究における協働実践の強化
    本研究科は、世界各国から著名な研究者を招聘して、国際コンファレンスやシンポジウム、ワークショップ、講演会などを開催してきた。
    このうち、2005年10月末に開催した立命館大学先端国際コンファレンス『倫理・経済・法:不正に抗して』は、集中講義や講演に招聘し本研究科と連携をとってきた著名な研究者たちも参加して、3日間にわたりアメリカ、イタリア、インドなどから報告者が参集して開催された。本企画に際して、多数の院生がペーパーの集約、編集、翻訳、資料作成、当日の運営などに積極的に携わった。
    特に、2005年10月末に開催した立命館大学先端国際コンファレンス『倫理・経済・法:不正義に抗して』(国際シンポジウムの際に、一定の予算を配分して院生自らのイニシアティブで比較的若手の研究者(アメリカ、インド、イタリアなど各国から参集する)による研究集会(国際シンポジウムの第3部)の部分の組織を実施した。また、そのためのペーパーの集約、編集、翻訳、印刷などを行い、これらの作業には、すでに個別のゼミで海外研究者を招聘し、集中講義や講演などを行い、その準備過程に院生が積極的に取り組んだ。
     また、フランスの歴史家アラン・コルバン(パリ第一大学名誉教授)氏を本学に客員教授として招きたいという本研究科院生のイニシアティブではじまったアラン・コルバン氏インヴィテーションプロジェクトは、2004年11月からはじまり、地道な準備・活動を経て、2007年1月の集中講義およびシンポジウム「近現代史への問い-アラン・コルバン教授を迎えて」を開催するに至った。その準備段階として、2006年6月以降、院生が主体となって外部講師を招き、計3回事前研究会を開催するなど集中講義・シンポジウムに備えてきた。集中講義最終日にはワークショップを開催して、院生が研究報告をおこなうなど、院生が主体的に参加した。

    (d)人的ネットワークのより一層の拡大
     国際シンポジウムをはじめ、日本および欧米の傑出した研究者を招聘して集中講義、講演会、ワークショップ、共同研究会などを実施し、人的ネットワークを拡大・強化した。また、海外大学との交流協定としては、台湾の佛光人文社会学院、イタリアのベルガモ大学複雑性認識論人類学大学院と包括的研究協力協定を締結した。今後も、具体的な取り組みを行っていく予定である。さらに世界的にも高等教育機関として高位にランクされるエコール・ノルマル・シュペリウールとの連携も視野に入れ準備を進めている。
     国際的ネットワークの形成は、大学全体としての「研究高度化」方針とも密接に関わっているので、先端総合学術研究科としては、国際共同研究や共同学位授与制度などの展開に向けた枠組み作りを現在検討中である。一方国内においては2006(平成18)年度、官民シンクタンク・研究所との将来的な連携をにらんだ研究所訪問・インタビュー、シンクタンクから人を招聘して研究会を実施した。
    「魅力ある大学院教育イニシアティブ」の「プロジェクトを基礎とした人社系研究者養成プログラム」の終了に当たって、文部科学省から外部シンクタンク等との連携などについていっそう強化するべきである、等の評価が示された。こうした評価をふまえてプロジェクトを基礎とした人社系研究者養成プログラムのモデルとしてのいっそうの高度化と精緻化をはかってゆくことを現在の目標としている。「魅力ある大学院教育イニシアティブ」の成果も踏まえて、2007年度グローバルCOEに本研究科を軸に「『生存学』創成拠点」プログラムとして応募し、採択された。ここにも本研究科の研究者養成の理念への期待と評価があらわれていると受け止め、いっそうの深化をはかってゆきたい。

    本研究科の教学方針がディシプリン型の研究者養成方法と決定的に異なるのは、複数のテーマ(「公共」「生命」「共生」「表象」)をたてて、院生ひとりひとりの問題意識を幅広くすくいとる入試方式、テーマ担当教員に偏らない複数教員による指導、テーマごとの自足を避けるために「核心としての倫理(コア・エシックス)」という総合的な理念を中心にすえたカリキュラム編成などである。これに、主題のいかんにかかわらず、院生のニーズをカバーできる多様なスキル科目を設置することで、院生相互の交流や切磋琢磨の促進を図っている点にある。
    学内においては、既存研究科の再編をにらんだ大学院博士後期課程の見直しが進められており、本研究科が示した路線が、学内で触媒的に働いている。
     プロジェクトに基礎を置いた研究者養成の状況は、設置3年目である2005年度には1名が早期修了によって博士学位を取得し、2006年度は同じく早期修了によって4名が博士学位取得した。
     他方、院生に研究分担者としての参画を求める「プロジェクト研究」は、学内研究所の研究会活動とも緩やかな連携を樹立しつつあり、学内の研究支援体制は、後期課程支援を重視する方向へと向かいつつある。

    設置の趣旨及び設置を必要とする理由

    (立命館大学大学院先端総合学術研究科設置認可申請書より)

    I 先端総合学術研究科の設置趣旨

    (1)先端総合学術研究科の理念-ディシプリンからテーマヘの転換

     日本の大学制度は今、近代化の初期に大学が創設されて以来、もっとも大きな変革の時代に直面している。学部から大学院までの教育研究システム全体が、国際的な水準を視野に入れた根底的な見直しをせまられている。高度な専門職技能の養成と、新たな時代の問題に取り組む研究者の養成がもとめられているのである。この新たな時代の研究者の養成に向けて立命館大学が提起するのが先端総合学術研究科の構想である。

     基本的に学部の上に置かれた現在の大学院は、明治以来の近代的学問体系にのっとったディシプリン、すなわち専門分野の区分に基づいて構成されている。先端総合学術研究科は、20世紀から今世紀に引き継がれた新たな質の、先端的なテーマに取り組む研究者の養成のために、特定学部を基礎とするのではない独立研究科とする。独立研究科としてディシプリンの総合化をはかり、また、研究所・センター群との連携によるプロジェクト研究における教育によって、大学院教育と先端的で総合的な研究との緊密な結合を実現することを基本的な狙いとしている。

     テーマ中心のプロジェクト研究に大学院学生を参加させることによって研究者養成教育をおこなう先端総合学術研究科は、ディシプリンを基礎とした既存研究科と建設的な緊張関係を保持しつつ、新たな研究領域創出をリードし、大学院学生に新たな選択肢を提供するものである。こうした目標を実現するために、テーマを中心とする研究科が教育システムとして備えるべき条件をとりわけ以下の5点に留意して検討し、構想を組み立てた。

    1)「核心としての倫理(コア・エシックス)」の問題をテーマ群の求心的な軸として設定する。

    2) 集中的な講読科目である基礎共通科目によって、諸分野に共通する基礎教育とテーマごとの基礎教育を確保する。

    3) 学内研究所、リエゾン部門(産官学連携推進担当部署)の蓄積をさらに発展させ学内外の研究者ネットワークを構築し、プロジェクト研究を展開する。

    4) 既存研究科との協同、連携、教員・学生の交流をはかり、既存のディシプリンを活用する。

    5) 定期的にプロジェクト研究の到達点を検証し、評価し、必要な見直しをおこなうことで、テーマの持続性のなかに変化を組み込む。

     以上の構想に基づいて、立命館大学が新たな大学院教育システムとして提起するのは、(a)「核心としての倫理(コア・エシックス)」を基軸として、(b)人文科学、社会科学、自然科学の3分野を横断する先端的で総合的なテーマ設定をもった、(c)オープンな研究者ネットワーク構築と多様な成果獲得を目指すプロジェクト研究を活用した、(d)時代的要講に応えうる柔軟な構造をそなえた、教育システムである。

    (2)4つのテーマと「核心としての倫理」

    (a)4つのテーマ(教育研究の柱となる領域):「公共」「生命」「共生」「表象」

     20世紀の提起した問題とは何か。わたしたちはそれを「公共」「生命」「共生」「表象」という4つのテーマに集約する。これらのテーマのもとにプロジェクト研究が展開される。そしてこれらテーマの中心に、今日あらためて深く問い直されている倫理への問いを設定する。「核心としての倫理〔コア・エシックス〕」を常に視点の中心にすえつつ、現代の諸科学分野に共有された問題群を4つのテーマのもとで追求することを通じて、新たな研究領域の創出をになう、先端的で総合的な知の探求者、制作者を養成することがこの大学院の目的である。こうした先端性と総合性の追求のこころみは専門分化した既存の研究科体制では実現がむずかしいものである。
     国家社会の変容、生命観の変化、民族や文化の対立、映像を含む情報技術の展開など、20世紀の正負の遺産を腑分けしながら、21世紀の世界を作り上げてゆくための知の主題に、自然科学の成果と人文科学、社会科学の知見を総合して取り組む大学院学生を教育するという課題に、わたしたちは「核心としての倫理」を中心とした4つの先端的なテーマ設定によって応えてゆきたい。

     それぞれのテーマは、知と世界の現実の動向との接触面であり、新たな課題が産出されるべき先端領域として選ばれている。各テーマに複数のディシプリンからの領域横断的アプローチをおこない、これらのアプローチを総合するいっぽう、テーマを個別的に深化することによって研究を展開するという方法を大学院学生に習熟させることが主要な目的である。
    「公共」「生命」「共生」「表象」というテーマは、「核心としての倫理」を軸とした、テーマのネットワークを構成する。大学院生は、4つのテーマによるプロジェクト研究と連携したプロジェクト演習という科目を履修

    公共-21世紀における公共性

     国家が「公共」を独占できた状況が崩れはじめ、「市民」の日常感覚を基礎に新しい共同性が組織化されつつあるという過渡期の状況が、「公共」を新たな探求の課題として浮上させた。福祉国家と旧社会主義圏とを問わず現出する、こうした課題をプロジェクト演習「21世紀における公共性」によって原理的なレベルから探求する。とりわけ国際関係論・比較文化論、経済学、社会学のディシプリンからの接近がおこなわれる。
     20世紀の人類は、二度の世界大戦と大恐慌の不幸な経験をへて、福祉国家の建設と社会主義の建設という大掛かりな実験をこころみてきた。しかし新たな世紀に入った今、社会主義体制は崩壊し、福祉国家は行き詰まりを経験しつつある。近代社会をリードしてきた「最大多数の最大幸福」という倫理的な要請は、今後どのように捉え直されることができるのであろうか。また国家の役割はどのように問い直されるのだろうか。「公共」のテーマにはそのような倫理の問いが内包されている。

    生命-争点としての生命

     ダーウィンが進化論を提唱して以来、生命の多様性は、あらためてさまざまな探求の争点となってきた。そして20世紀の分子生物学の発展、ゲノム分析の進展、新しい生命操作技術の登場、自然破壊の急速な進行による生命の多様性の喪失は、わたしたちの生命観および環境観の根幹をゆるがす、深刻な問題をなげかけている。プロジェクト演習「争点としての生命」では、21世紀の生命と環境の新たなあり方を考えるために、哲学・倫理学、科学論・ジェンダー論、生物学・環境論のディシプリンからの接近がおこなわれる。

     生命維持装置の実用化と普及は、生死の境界を不明確にし、生殖にかかわる技術の開発は、人の生殖の操作可能な範囲を著しく広げている。生命科学技術の飛躍的な進展による生命と死の操作可能性の著しい拡大は、わたしたち自身がわたしたち自身に対して何をどこまで許すのかという、今までにない倫理の問題を提起している。

    共生一共生の可能性と限界

     人類の歴史は、多様な文化の創造と共生の歴史であった。それは多大な犠牲をともなう不完全な共生の実験であり、過去に測る時、わたしたちは多くの犠牲者たちの痕跡を見出すことになる。逆に、21世紀において敢えて「共生」を語ろうとするならば、それは、そうした犠牲者のうえに、犠牲を伴わない共生の可能性を構築していくことでなければならない。プロジェクト演習「共生の可能性と限界」では、共生の実態を調査、観察するだけではなく、最終的には共生の倫理を問うために、政治哲学、比較文学、文化人類学のディシプリンからの接近がおこなわれる。

     世界のさまざまな亀裂があらためて顕在化しはじめた21世紀に、わたしたちは異なった生き方の作法、異なった歴史へのヴィジョン、異なった信仰や価値の体系、異なった民族への帰属を互いにどのように対置し尊重しあうのか、あらためて差異を認識し「共生」の倫理を創りあげることが求められている。

    表象-表象文化における伝統と技術

     情報技術の進展は、イメージと表象のあり方に根底的な変化をもたらし、日常生活における人間関係の様相に深い影響を与えはじめている。それと同時に、情報複製技術の進展は、オリジナルとコピーの関係の再考を迫るとともに、人権や著作権などの既成の概念では解決しきれない侵害の可能性をもたらしている。プロジェクト演習「表象文化における伝統と技術」によって、近現代の表象体系のあり方を、技術的側面まで視野に入れつつ批判的に探求するために、美学・芸術学、伝統芸能論、情報工学のディシプリンからの接近がおこなわれる。

     20世紀は、知識と情報が新しいメディアを通じて、今までにない速度と密度と広がりで流通し始めた時代であった。それまでの地域的な基盤のうえに成長し、享受されてきた文化のありかたにも、また社会構造や政治動態にも大きな変容がもたらされた。表象の操作には戦時期におけるそれのような不幸な例もあった。文化の伝承と創造にかかわるメディアと「表象」にはらまれた問題もまた、倫理の視点からの検討が求められている。

    (b)「核心としての倫理(コア・エシックス)」

     こうした問題の広がりは、20世紀が21世紀に引き継いだ最大の技術的達成ともいえるIT技術とヒトゲノム解読そして生体組織工学のもたらすインパクトの今後の展開を考えても、近年いっそう大きなものとなってきている。21世紀における新たな問いは、あらためて人聞とは何か、いかに共に生きてゆくべきか考えることを求めている。こうした普遍的な問いは、人文科学と社会科学の区分を超え、さらに自然科学との対話と協同を求める、領域横断的な構造をそなえている。「公共」「生命」「共生」「表象」というテーマ群に人文科学、社会科学、自然科学の各ディシプリンから取り組むこと通じて、既存学問の融合をはかりつつ、単なる対症療法に終わらない根源的な問い直しによる新たな研究領域の創出を目指した教育システムを構築することが、現在、必要とされている。

     こうして21世紀に引き継がれた問いの中心にあるものを、わたしたちは人文科学、社会科学、自然科学の「核心としての倫理」と呼び、新たな大学院における教育の軸とする。

     人間にとって基本的なこうした問いに応えることは、現在、もっとも緊急で重要な挑戦であろう。今、根源に帰ることがもっとも先端に立つことでもある。

     新たな大学院における総合の基礎となるこの「核心としての倫理」は、1、2年次の基礎共通科目「基礎講読演習(コア・エシックスI・Ⅱ・Ⅲ)」における集中的な講読演習によって深められる。

    (3)開かれたプロジェクト研究による研究者養成教育

     「核心としての倫理」を基礎として展開される4つのテーマの追求が、大学院教育の先端性と総合性を内容面から支えるとすれば、教育システムとして先端性と総合性を実現するのが研究所・センター群において展開されるプロジェクト研究への大学院学生の参加による、研究者の「オン・ザ・ジョブ・トレーニング(On-the-job Training)」である.この教育システムは、プロジェクト研究を推進するテーマ責任者を中心とするプロジェクト担当者のイニシアティヴのもとに形成される、学外へも広がる研究者ネットワークのなかで、大学院学生の研究力量を実践的に鍛えることを目的としている。もっとも先端的に問題提起をおこなっている研究者に直接接しながら、個別の研究領域にとどまらない知識と展望を獲得する機会を提供するものである。研究所・センター群との連携をおこなう必要性はこうしたオープンな教育・研究の場の形成という点にある。

     したがって、プロジェクト研究においては、とりわけ学外の人材からも積極的かつ的確に教育効果を引き出し、アカデミックな世界をリードしうるネットワークを構築してゆくことが重要である。こうした方針は、先端総合学術研究科においては、大学外の研究所あるいは企業における研究開発に携わる研究者、専門家が兼職教員としてプロジェクト研究を担当する体制を実現することによっても追求される。プロジェクト研究の形態については、これまで立命館大学において実施されてきた「学術フロンティア」、「オープンリサーチ」、さまざまな受託研究などから得た経験を生かし、多様なネットワーク構築を目指してゆきたい。また大学院学生レベルでの外部の教育組織との連携、たとえば国立共同利用研究機関における研究員制度の活用などを奨励してゆきたい。

     「核心としての倫理」を軸とした4つのテーマによるプロジェクト研究を組みこんだこの研究科は、大学院学生に柔軟な教育システムを提供し、基礎教育と研究における「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」の有効な組み合わせを実現するために一貫制博士課程とする。

     さらに4つのテーマによるプロジェクト研究を常に時代的な要請に応えるものにするために、外部評価を組みこんだ定期的な評価システムによってプロジェクト研究のテーマそのものの評価と、必要に応じた見直しのシステムを構築する。より具体的にいえば、評価の作業をおこなった後に、その結果を反映できるようにプロジェクト研究のテーマそのものを見直し、時代の要請に即応した新しいテーマ設定と、それに対応した適切な担当体制への再編をおこなう。

    II 養成すべき人材像

     先にふれたディシプリンすなわち専門分野に基づく旧来の大学院教育の限界は、多くの場合大学および大学院の教育システムそのものが外部との緊張関係を失って閉塞した状況に陥っていることからも由来している。こうした状況を打開するために、近年では教育研究分野に大学外の経験を積んだ人材を積極的に導入することが試みられてきた。わたしたちは今、近年の試みの重要性を認識しながらも、外部からの経験を導入するだけでなく、大学院の教育と研究のあり方そのものから、従来のディシプリンの枠組みを超えた、複数の分野と果敢に連携し共同する試みを提起するべき段階にさしかかったと考えている。なぜなら、重要なことは大学院における教育を現実の複雑さの水準に見合ったものに引き上げることだけでなく、世界の動向に一歩先んじつつ、今後必要とされる新しい人材を、さまざまな分野に向けて輩出することにあるからである。新しい人材は以下のような能力を備えることが期待される。

     1)世界のさまざまな動向にリアルタイムで対応しうる、研ぎ澄まされた感受性とレスポンス能力。

     2)世界の新たな兆候を、歴史的な視点を踏まえて、人間にとって基本的で普遍的な問いとして提起し、回答する能力。

     3)こうした問いと回答を、研究者をはじめ、さまざまな活動をしている市民や専門家などとの共同作業と連携のなかで展開しうる能力。

     4)獲得された研究成果を、旧来のメディアだけでなく、多様な媒体(電子媒体、映像媒体)を通して、広く内外に有効に発信する能力。

     5)新たに創出される研究のあり方をシステムにまで高めて、次世代に継承する能力。 先端総合学術研究科は、新鮮な感性と基礎的なディシプリンを踏まえた原理的な考察とを結びつけ、核心的な問題群をあきらかにするために、「象牙の塔」でも「蛸壼」でもない、オープンな教育と研究の場を創出する。すなわち個々のメンバーがそれぞれの個性的な問題意識を通じて連携しあいながら、研究内容についての説明責任を担い、自己責任のもとで成果発信を行ないうる教育と研究の場である。そこでは「核心としての倫理」を基軸として「公共」「生命」「共生」「表象」をテーマとする複数のプロジェクト研究に参加しながら博士論文を作成するという経験を通して、これからの時代をさまざまな分野で主導する新しい活動のスタイルをもった研究者を養成することを目標としている。それぞれ、学部段階で修得したディシプリンを基礎としながら、テーマに即した具体的な主題に取り組むプロジェクトを企画立案し問題の解決をリードすることで、既存の領域を横断する新たな研究領域を切り開き、現代世界への知的な貢献を果たすのである。

     このような柔軟な感性と新しいタイプの知性とプロデューサーとしての実行力をそなえた博士学位保持者は、旧来の研究機関だけでなく、多様なネットワークで実力を発揮し、国内のみならず世界のさまざまな機関(政府・自治体、民間企業、シンクタンク、NG0/NPO、メディアなど)において活躍を待望される人材である。既存の機関が刷新され、新たなネットワークが創出される時代のなかで、社会的にもますます広く要請される、新しい時代に即応できる実力をともなった博士学位を保持する人材こそが今後いっそう高く評価されるだろう。また、それらの人材は将来、先端総合学術研究科が人的ネットワークを構築してゆくにあたって、資するものであることはいうまでもない。